ミトコンドリア病

ミトコンドリア病

こんにちは。培養士の垣井です。

先日、ミトコンドリア病についてお問い合わせがありましたので、ご紹介させていただきます。

ミトコンドリア病は、細胞内でエネルギーを生成するミトコンドリアの機能不全によって引き起こされる遺伝性疾患の総称です。ミトコンドリアはATP(アデノシン三リン酸)を生成する役割を担っており、これが細胞のエネルギー源となっています。ミトコンドリアの異常があると、ATPの生成が妨げられ、特にエネルギー消費の多い筋肉、脳、心臓などの器官に障害が現れます。

診断には、血液検査、筋生検、MRI、遺伝子検査などが用いられます。また、ミトコンドリア機能の評価も重要であり、遺伝的変異が確認されることで確定診断が下されます。

しかし、ミトコンドリア病の発症には複数の要因が影響しているため、診断は非常に難しいものとなっています。以下、診断を複雑化させる要因を説明させていただきます。

診断を複雑化させる要因

症状の多様性と非特異性

ミトコンドリア病は、多くの異なる症状を引き起こす可能性があり、患者様ごとに症状が異なることが多いです。以下のような症状が現れることがありますが、これらは他の病気でも見られる一般的な症状であるため、ミトコンドリア病だと特定するのが難しいです。

  • 筋力低下、筋肉痛
  • 神経障害(てんかん、発達遅滞)
  • 視覚や聴覚の障害
  • 心臓や肝臓の機能不全
遺伝的多様性

ミトコンドリア病は、核DNAとミトコンドリアDNA(mtDNA)の両方に関わる遺伝子変異が原因となり得ます。mtDNAは母系遺伝ですが、核DNAは父母両方から受け継がれるため、遺伝のパターンが非常に複雑です。遺伝子検査の技術は進化していますが、全ての遺伝子や変異を正確に検出するのはまだ難しい場合があります。

また、mtDNAは同じ細胞内で異なるバリアントを持つことがあり(ヘテロプラスミーと呼ばれる現象)、この割合が異なると症状の出方も変わります。このため、遺伝子検査で異常が見つかったとしても、それが症状とどのように関連しているかを判断するのが難しいことがあります。

診断の難しさ

ミトコンドリア病は稀少疾患であり、診断には特定の知識と経験が必要です。しかし、症状の多様性、遺伝的複雑性、標準的な診断基準の不足、進行性症状、専門医の不足などの要因が重なり、非常に難しいものとなっています。そのため、診断を確定するためには、専門医による多角的なアプローチが不可欠です。

お問い合わせいただいた患者様はまだはっきりと診断はついておらず、主治医にて原因遺伝子の探求中でした。これからお子様を迎える準備をするにあたり、他に何かできる検査はないかと当院へご連絡くださったそうです。

当院では、スクリーニング検査、mtDNAを含む遺伝子パネル検査、WES、WGS検査など様々な遺伝子検査がございますが、患者様の背景や症状により、各検査をご提案させていただきます。ただし、検査をすることで必ずしも原因を見つけ出せるとは限りません。遺伝子変異の中には臨床的影響が不明のものがあります。これらは今後の研究により解釈が変わる可能性があり、現在は病的ではないと考えられる変異が、将来疾患と関連することが明らかになる場合や、逆に関連がないことが分かる可能性もあります。

また、検査によってはまだ完成された技術ではないため、塩基配列の読取精度は非常に高いものの100%とは言えず、変異を見落とす場合や、誤って疾患の可能性があると判断する可能性もあります。それでも、検査することにより、これからの治療に対する重要なアプローチとなると考えます。何か不安やお悩みがある方は、ぜひ一度当院ヘルプセンターまでお気軽にお問い合わせください。


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