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不妊治療における永遠のテーマともいえる「胚盤胞移植と初期胚移植、結局どちらが良いのか?」について、ついに最高峰の医学誌 BMJ (British Medical Journal, IF 93) において、質の高い ランダム化比較試験 (RCT) の結果が発表されました。
本研究は、オランダの21の病院・クリニックで実施され、18~43歳の1,706名の女性が登録され、最終的に1,202名が研究対象となりました。ここまで大規模なRCTが実施され、しかもBMJ誌に掲載されるということは、それだけ研究デザインの質が高いことを意味します。
従来のコクランレビュー(2022年)のメタアナリシスでは以下のように報告されていました:
- 胚盤胞移植は妊娠率・生児獲得率が高い(※新鮮胚移植あたり)
- 胚盤胞移植では凍結率が低い
- 初期胚移植は移植キャンセル率が低い
- 累積妊娠率は変わらない
では、今回のBMJ誌のRCTではどのような結果が得られたのでしょうか?
研究デザインと方法
本RCTでは、胚盤胞移植グループと初期胚移植グループで以下のようなプロトコルが設定されました。
胚盤胞移植グループ
- 5日目胚盤胞の新鮮胚移植
- 5日目、6日目の胚盤胞をガラス化凍結
- 胚盤胞の発育がない場合、5日目に桑実胚や初期胚を移植
初期胚移植グループ
- 3日目の新鮮胚移植
- 3日目または4日目のガラス化凍結または緩慢凍結
- 有効な初期胚が得られなかった場合、6日目まで培養して胚盤胞になれば凍結(ただしデータからは除外)
主要な結果
① 累積出産率(最終的な出産率)
- 胚盤胞移植:58.9%(355/603)
- 初期胚移植:58.4%(350/599)
→ 両グループで有意差なし! つまり、「最終的に出産できる割合は変わらない」という結果でした。
② 累積流産率
- 胚盤胞移植:16.3%(98/603)
- 初期胚移植:24.2%(145/599)
→ 胚盤胞移植グループの方が流産率が低い!(リスク比 0.68)
③ 新鮮胚移植あたりの出産率
- 胚盤胞移植:37.0%(223/603)
- 初期胚移植:29.5%(177/599)
→ 新鮮胚移植あたりの出産率は、胚盤胞移植の方が高い!(リスク比 1.24)
④ 受精卵あたりの胚利用率
- 胚盤胞移植:55.3%(2535/4590)
- 初期胚移植:71.0%(3226/4543)
→ 胚盤胞移植の方が胚利用率が低い(=ロスが多い)
⑤ 出産までに必要な移植回数
- 胚盤胞移植:1.55回
- 初期胚移植:1.82回
→ 胚盤胞移植の方が、移植回数が少なく済む!(P < 0.001)
⑥ 採卵から出産までにかかった期間
- 胚盤胞移植:3.1ヶ月
- 初期胚移植:4.7ヶ月
→ 胚盤胞移植の方が中程度の早産率が高い(リスク比 1.87)
⑦ 早産率
- 胚盤胞移植:8.9%
- 初期胚移植:4.7%
→ 胚盤胞移植の方が中程度の早産率が高い(リスク比 1.87)
⑧ 年齢別サブグループ解析
- 36歳以上:胚盤胞移植 52.1% vs. 初期胚移植 43.1%(高い傾向、統計的有意差なし)
- 36歳未満:胚盤胞移植 62.6% vs. 初期胚移植 67.1%(低い傾向、統計的有意差なし)
→ 高齢女性には胚盤胞移植、若年女性には初期胚移植が有利か?
結論:どちらを選ぶべきか?
- 「最終的な出産率」は変わらないが、新鮮胚移植あたりの出産率や移植回数、出産までの期間を考慮すると「胚盤胞移植が有利」
- ただし、胚利用率は低いため、初期胚移植の方が胚を効率よく活用できる
- 早産率は胚盤胞移植の方がやや高い傾向があるため注意が必要
- 高齢女性(36歳以上)は胚盤胞移植の方が向いている可能性
- 若年女性(36歳未満)は初期胚移植の方が向いている可能性
今回のBMJ誌のRCTは、これまでHR誌やFS誌では示せなかった「どちらが本当に優れているのか?」という問いに、より明確なエビデンスを提供しました。
この結果を踏まえ、オーク会では今後も患者様ごとの最適な移植方法を提案し、より良い妊娠・出産結果を目指してまいります。
今後も最新のエビデンスに基づく情報をお届けしますので、お楽しみに!
【参考文献】
BMJ掲載論文:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39284610/
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