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2025年1月25日、医学誌 BMJ に、「新鮮胚移植と凍結胚移植の比較:予後不良女性を対象とした多施設共同ランダム化比較試験」 の結果が発表されました。
これは、これまで不妊治療分野で議論されてきた「凍結胚移植 vs. 新鮮胚移植」の優位性に関するエビデンスを大きく揺るがす可能性がある重要な論文です。
研究の概要
本研究は、中国の9つの大学附属不妊治療センター において、体外受精(IVF)治療において予後不良(この言い方はどうかと思いますが、訳としてはこうなってしまいます。)と診断された838名の女性 を対象に実施されました。
対象基準:
- 採取卵子数が9個以下
- もしくは、卵巣予備能が低い(胞状卵胞数<5個 または 血清抗ミュラー管ホルモン値<8.6 pmol/L)
研究デザイン:
- 参加者を 「凍結胚移植群」 と 「新鮮胚移植群」 に 1:1 の割合でランダムに割り付け
- 凍結胚移植群: すべての胚を凍結保存し、後日移植
- 新鮮胚移植群: 採卵後の周期で新鮮胚を移植
主要評価項目:
- 生児出産率(妊娠28週以降に心拍と呼吸を伴う新生児の出産)
副次評価項目:
- 臨床妊娠率、多胎妊娠率、妊娠喪失率、異所性妊娠率、出生体重、母体および新生児の合併症、累積生児出産率(無作為化後1年以内の移植)
主な研究結果
- 生児出産率(Primary Outcome)
- 新鮮胚移植群の方が有意に高い(40% vs. 32%、相対比 0.79 [95%CI: 0.65–0.94]、P=0.009)
- 臨床妊娠率
- 新鮮胚移植群の方が高い(47% vs. 39%、相対比 0.83 [95%CI: 0.71–0.97])
- 累積生児出産率(無作為化後1年以内の移植)
- 新鮮胚移植群の方が高い(51% vs. 44%、相対比 0.86 [95%CI: 0.75–0.99])
- 累積生児出産率(無作為化後1年以内の移植)
臨床への影響と今後の課題
BMJ掲載のRCTという影響力
本研究は BMJ(British Medical Journal) に掲載されたことにより、今後 各国の不妊治療ガイドライン に大きな影響を与える可能性があります。これまで凍結胚移植が推奨される場面が多かった一方で、予後不良の女性にとっては新鮮胚移植の方が有利 である可能性が示唆されました。
予後良好 vs. 予後不良の女性で結果が異なる?
過去の研究では 「予後良好な女性」においては凍結胚移植が有利 というデータもありました。しかし、本研究では予後不良の女性に限定した結果として 新鮮胚移植の方が有利 という異なる傾向が示されました。
この違いが何に起因するのか、今後のさらなる研究が求められます。
凍結胚移植の影響:凍結融解によるダメージ?
凍結融解の過程で胚の質が低下する可能性が議論されています。特に予後不良の女性では もともと得られる胚の数が少ないため、凍結胚移植による影響がより大きくなる可能性 も考えられます。
新鮮胚移植における高エストラジオール値の影響
新鮮胚移植では高エストロゲン環境の影響が懸念されます。内膜の状態が着床に不利になる可能性と、OHSSリスクのリスクがあります。本研究では卵巣の反応がそれほど良くない女性を対象にしていて、高エストロゲンの影響が少ないことが考えられます。そのような女性においては、 新鮮胚移植の方が成績が良い という結果となりました。
まとめ:実臨床に与える影響
今回のBMJ掲載のRCTは、不妊治療の実臨床に大きなインパクトを与える可能性があります。特に、予後不良の女性においては、凍結胚移植よりも新鮮胚移植の方が高い生児出産率を示した という点は注目すべきポイントです。
今後、ガイドラインや診療方針がどのように変わっていくのか、不妊治療の現場としても慎重に見守る必要があります。
また、BMJ姉妹誌(BMJ Open)などでのさらなる研究の発表 も期待されます。
本研究結果がどのように評価され、実際の診療にどのような変化をもたらすのか、引き続き注目していきます。
【参考論文】
Frozen versus fresh embryo transfer in women with low prognosis for in vitro fertilisation treatment: pragmatic, multicentre, randomised controlled trial
BMJ 論文リンク(外部リンク)>>
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