医局カンファレンスです。
妊娠に関わる現象のなかで、精子や卵の形成・成長・成熟、排卵、受精などに比べ、未知の部分が多いのが「着床」です。
着床は受精卵が子宮内膜(子宮の内側の粘膜)にくっつく現象ですが、これが起こりうる時期はひとつの月経周期のうち3-4日間と非常に限られており、なおかつこの期間に受精卵と子宮内膜がともに良い状態にないとなりません。
最近の体外受精の進歩によって、よい受精卵が得られるのになかなかうまく妊娠できない、いわゆる“着床不全”の病態が徐々に明らかになってはきました。
しかしながら、まだまだ不明点が多く、診断や治療に応用されるには長い道程があります。
他の医学領域と同じく、着床に関する研究は、おもにマウスを使った動物モデルで進められてきました。
いくつかの特定の遺伝子を持っていない(または改変した)マウスでは、着床不全や超初期流産が起きやすいことが報告されています。私も10年来この着床不全と取り組んできましたが、難しいのは、着床が起きる現場である子宮内膜がヒトとマウスではいろいろな面で大きく違うことです。
たとえば、ヒトでみられる月経(子宮内膜が定期的にはがれる現象)は、マウスにはありません。
また妊娠が成立したときには子宮内膜は胎盤の一部になりますが、その胎盤の作られ方や構造も両種で全く違います。
このため動物での研究がなかなかうまく診療に結びつかない分野です。
このようにこれまで有効な治療法がなかった着床不全ですが、この1-2年光明が差してきました。
次の機会にこれについて触れていきます。