医師の林輝美です。
体外受精で受精・分割した良好胚を戻します。
そのあと妊娠反応陽性という結果をお伝えしたのに、あえなく月経となったり超音波検査で胎嚢を見ることなく妊娠終了となる
場合を生化学的妊娠(chemical pregnancy)といいます。
実はこの生化学的妊娠を何度か経験しながら、ついに順調な妊娠を迎えることになる人は多いのです。
新しい命の出会いを感じたいのに、あまりに早い妊娠の終了は悲しい別れのようですが、実は臨床的にはこの生化学的妊娠は妊娠や流産のひとつとして扱われていません。
染色体異常による流産は少なくありません。
流産胎児の約80%に染色体異常が見つかっています。
もっとさかのぼれば、受精をした時点での染色体異常が40%、そのあと分割をくり返して子宮の内腔に移動し、着床の時期の胚盤胞の染色体異常の率は25%に減っていきます。
着床が成立して妊娠反応が陽性となり、妊娠した事実に気づくときに胎芽の染色体異常の率は10%になります。この妊娠が何らかの治療により、もしすべて継続したら生まれてくる子どもの10%は染色体異常児となってしまいます。
ところが実際に生まれてくる染色体異常児は0.6%とのことですからすごく早い時期(生化学的妊娠)かもしくは遅くなってから(流産)か、いずれかの時期で自然に淘汰されているわけです。
不育症について考えるとき、この染色体異常の要素をもつ妊娠が中断されることは避けられませんしまた継続させるべきとも思えません。
「ご妊娠」の報告をした1週間後くらいに、血液検査によって妊娠の終了をお伝えする場面は日常で多いです。
悲しい、残念な結果と受けとめられて次の妊娠への自信がなくなりそうですが、ひとつ妊娠へ足をふみ入れたのだと自信をもっていただきたいです。
確率的にうまく妊娠継続する番が回ってきます。
ですので、この生化学的妊娠をくり返しても不育症と呼ばずにいます。
もしご心配なら不育症の検査をしておいてもいいでしょう。
「根本的な原因は何もない」という確認になりますね。