医局カンファレンスです。
前回の続きです。
着床前診断によって染色体正常な胚盤胞を選別でき、妊娠率を損なわずに、多胎を回避できる新しい方法が提案されました。
この着床前診断の方法について、培養5日目にレーザーと栄養外胚葉 (注1) を生検して、細胞を採っています。
栄養外胚葉は将来おもに胎盤になってゆく細胞のグループです。
定量的リアルタイムRT-PCR法で診断を行っています。
この方法を用いると4-6時間で結果を出すことが可能で、染色体正常と判断された胚を、はや翌日(培養第6日目)の午前に新鮮移植しています。
従来の培養3日目の分割期胚からの細胞を取り出す方法では、妊娠成績が悪いことが知られていました。
赤ちゃんへ育っていく細胞と胎盤予備群の細胞とを顕微鏡で区別できるようになる5日目まで待つことで、胎盤予備群の細胞だけを切り取って調べることが可能になり成績が大きく向上したと考えられます。
興味深いのは、報告者たちが新鮮胚移植にこだわっている点です。
この研究でも大部分が新鮮移植されています。
緩慢凍結法が中心の欧米では凍結融解移植の成績が新鮮移植に比べて大きく劣るため、融解胚移植は好まれません。
一方、日本ではガラス化法を利用した凍結融解胚移植の成績が非常に良く、現在主流になっています。
欧米では、ガラス化法を用いると、多量の凍結保存剤が胚に浸透し、細胞にダメージを与えるとの懸念が根強く
導入を見送る施設が多いようですが、最近、緩慢凍結法の方が、ガラス化法よりも凍結保存剤が胚に多く浸透するという報告も出てきており考え方が変わってゆくかもしれません。
注1
「胚盤胞・3BA」を例に取って説明すると、最初の数字“3”が「拡張度」を意味します。ステージ1から6までの数字で表されます。この数が大きいほど拡張の度合いが高いことを示しています。この研究では3-6のものを拡張胚盤胞と定義しています。
続くアルファベット”B”は「内細胞塊(赤ちゃんになってゆく細胞のグループ)」の状態を、最後の”A”は「栄養外胚葉(胎盤になってゆく細胞のグループ)」の状態を表したものです。
胚盤胞を拡張度-内細胞塊-栄養外胚葉の3つの要素から評価する方法は、開発者の姓を取ってガードナ(Gardner)分類と呼ばれ、胚盤胞の形の判定にもっともよく利用されています。
ブログ記事「着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その5 (2013-04-09)」もよろしければ参照ください。