高齢女性に対する成長ホルモン(GH)の効果

高齢女性に対する成長ホルモン(GH)の効果

医局カンファレンスです。

今回は成長ホルモン(GH)の高齢女性に対する効果について、顆粒膜細胞や卵胞液を使って検討した論文です。(Fertil Steril 2018;110:1298)

445個の卵胞について検討しました(62人の不妊治療中患者から採取されたもの)。
39歳から45歳の卵巣機能低下(前胞状卵胞が8個未満)の患者に対して、前周期から採卵周期にかけて計60単位のGHを投与し、投与していない群と比較検討しています。
FSHレセプター(FSHR)、LHレセプター(LHR)、骨形成ホルモンレセプタ(BMPR1B)、成長ホルモンレセプター(GHR)と卵巣機能、顆粒膜細胞での発現率、卵の質、妊娠率などについて検討しています。
(ホルモンが作用する部分をレセプターといい、細胞がホルモンをキャッチするアンテナのようなものです。)

① 年齢が若いと卵巣機能がよくてもGHRの発現は低く、高齢になると卵巣機能がよいとGHRの発現が高い。
② 年齢だけだと年齢が高いほうがGHR発現が高く35-38歳でピーク。
③ 年齢別でも卵巣機能がよいとGHRの発現は高い。
④ 卵巣機能がいい人たちの卵胞では14mmにGHRのピークがきていますが、卵巣機能が低下している人の卵胞では16-19mmにGHRのピークがきていました。
そして卵巣機能低下の人にGHを投与すると、GHRのピークが14mmにシフトしていた。
(⇒8-14mmの卵胞でGHは作用し、卵胞発育を促していると考えられる。)
⑤ すべてのレセプターの発現がGHを投与することで投与しない人よりも有意に高くなっていた。
⑥ GH投与群は妊娠率が有意に高くなっていた。

まとめると、
GH投与群は同年齢や同等の卵巣機能(=以前の採卵数)の患者と比較し、FSHR、BMPR1B、LHR、GHRが増えていました。
また、GHを投与することで妊娠率が有意に上昇していました。

(解説)
以前より成長ホルモンによりFSH製剤に対する顆粒膜細胞の反応が改善し、卵子の増加や妊娠率の上昇が言われていました。
これは成長ホルモンにはJAK2(酵素)を活性化させ、GHR-JAK2複合体が細胞の変化や卵子の成熟のような体内におけるたくさんの細胞反応を引き出す作用があるためと考えられます。

GHRは顆粒膜細胞や小胞体の中に存在しています。
GHRはFSHやBMPs、ソマトスタチンのようなその他の成長因子によって調整され、GH治療によりGHR自体の発現に変化を与え、FSHRやLHR、BMPR1Bに対して間接的に変化を引き起こすことがわかっています。
また年齢とともに、それぞれのレセプターの発現は低下しますが、GHを取り入れることでレセプターが増加し、卵胞発育を促すことがわかっています。

最近のデータでは、GHを投与することで卵子の数が増えたというよりは卵の質が変化したことで妊娠率が上昇したのではないかと言われています。
顆粒膜細胞におけるホルモンレセプターの発現を増やし卵の質の改善につながっているのではと考えられます。
この理由の一つとして、LHRの発現を増やすことで、卵子の最後の成熟過程をよりよくする効果が期待されるからです。

GHの投与に関してはコストの問題やまだまだ大規模な検討が必要ですが、今後高齢の方に対する治療の一つとして注目していきたいです。
GHを増やすものとして、アミノ酸の一種であるアルギニンやオルニチン、睡眠、運動、バランスのとれた食事、GHを減らすものとしてストレス、過度な飲酒などがあります。
できる限りGHを増やす生活をしてみましょう。