医局カンファレンスです。
妊娠初期において低容量アスピリンを内服していることで絨毛膜下血腫の可能性が上昇することを示した論文です。(Fertility and Sterility Vol.105,No.5,May 2016,p1241-1246)
体外受精や不育症の治療として妊娠初期から内服するアスピリンやヘパリンが絨毛膜下血腫(SCH)とどのような関係にあるか検討しています。
①アスピリンもしくはヘパリン投与群(不妊症233人、不育症88人)、②コントロール群(212人)としています。
SCHの出現率は①40.2%②10.9%と有意に①が高かったです。
①の中でSCHの出現は、アスピリン投与群50.2%、非アスピリン投与群13.6%で、有意にアスピリン投与群でSCHの出現率が高いことがわかりました。しかし、へパリン投与群と非へパリン投与群とではSCHの出現率に差はみられませんでした。
(解説)
妊娠初期のSCHは0.46-22%出現するといわれています。SCHは子宮の壁から栄養膜(絨毛膜)が部分的に剥離してしまうことによって、子宮と栄養膜の間に出血が貯留する現象です。
不正出血や子宮収縮による腹痛をともなうことがあります。
SCHによって流産や胎児死亡、早産などのリスクが高まるとも言われています。
また体外受精妊娠では自然妊娠に比べるとSCHが高率に見られるという報告もあります。
子宮卵巣の血流をよくする効果があるアスピリンやヘパリンを不妊患者や不育症患者に使用することがよくあります。
抗凝固療法といって血を固まりにくくする治療です。SCHが出現した時(出血がおこっている時)にこれらの薬剤を中止するか悩みます。止血したいが凝固機能を高めることで胎児発育が阻害されるかも知れないからです。
この論文のデータによって、アスピリン投与によってSCHが出現する可能性が高いことがわかりました。
よって、アスピリンを一時的に中止することがSCHの治療になり、へパリン投与は続けていくもしくはかわりに投与することも可能であるということです。