医局カンファレンスです。
甲状腺機能と卵巣刺激の関係についての論文です。(Fertil Steril 2012;97:585)
前方視的検討です。
57人の体外受精患者で、高刺激法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)で行い、
① 刺激前
② 刺激後4-7日目
③ HCG投与時
④ HCG投与1週間後
⑤ 妊娠判定時
⑥ 妊娠判定2週間後
で、TSH値、FT4、E2、TBGの変化についてまとめています。
TSH値は、刺激とともに上昇し④でピークを迎えその後刺激前の値に戻っていきます。機能が正常の人では変動は少ないですが、甲状腺機能低下症の人は卵巣刺激と共に徐々に上昇し④で正常の人と比較し有意に上昇しています。FT4も④で一番高くなります。
特に、甲状腺機能低下症の診断でチラージン内服している患者さんでは、④で正常の方よりもTSH値が有意に高くなりました。また、刺激前はTSH≦2.5mIU/mlであった患者さんについて、その44%が卵巣刺激中~刺激後に2.5以上に上昇していました。
(解説)
甲状腺機能低下症、特に潜在性甲状腺機能低下症を疑う患者さんに出会う頻度は意外と高いです。
潜在性甲状腺機能低下症は一般に5%前後存在すると報告されています。まだ定まった見解はないのですが、TSH2.5mIU/ml以上、甲状腺ホルモンは正常の状態をいいます。甲状腺ホルモンが正常でも、TPO抗体や抗サイログロブリン抗体陽性があれば橋本病と診断されます。
生殖補助医療を行うにあたって甲状腺機能と不育症(流産)の関係が一番重要ですが、甲状腺ホルモンは卵胞発育、黄体機能維持にとっても必要と言われています。
なぜなら、卵胞の成長や黄体、受精卵すべてに甲状腺ホルモンレセプターが存在するからです。甲状腺ホルモンが正常にあればまず問題ないですが(潜在性甲状腺機能低下症)、甲状腺ホルモンの低下をきたせば(原発性、中枢性甲状腺機能低下症)、卵胞発育の低下、排卵障害、黄体機能不全になります。
ただ、どの程度ないといけないのかということはわかっていませんが、TSH値が高いほど甲状腺ホルモンが低下してしまい、卵胞発育しにくく、排卵しにくくなるので、甲状腺ホルモンが正常範囲内に存在すれば問題ないのではと思われます。
よって、橋本病であっても、甲状腺ホルモンが正常にあれば、体外受精における刺激周期では卵胞発育や排卵に関しては問題ないと考えられます。また甲状腺機能低下症と受精率や着床率、妊娠率についての報告もありますが、証明されたものではありません。
今回のデータは体外受精において、卵巣刺激を行うと、どのように甲状腺機能が変化していくかについて調べたものです。海外では、卵巣刺激-採卵-新鮮胚移植が多いので、卵巣刺激によるTSH値上昇を考え、TSH値を慎重にみながらチラージンによるコントロールが必要ということです。日本では高刺激周期ではほぼ全胚凍結していますので、甲状腺機能を確認するとすれば移植前に確認されるのがいいのではないでしょうか。