抗セントロメア抗体と体外受精

抗セントロメア抗体と体外受精

医局カンファレンスです。

少し前の論文ですが、Fertility and Sterility に抗セントロメア抗体についての論文があるので紹介したいと思います。
(Vol.100,No.6,2013,p1585-1589)

後向き研究です。
187名中、
①ACA(抗セントロメア抗体)[+]、ANA(抗核抗体)[+] 20名
②ACA[-]、ANA[+] 51名
③ACA[-]、ANA[―] 116名
で、年齢で有意差がでないように選択されていました。

またその他の各グループの患者背景に有意差はありませんでした。
顕微授精において、使用したHMG/FSHの量に差はなく採卵数も各グループで有意差はありませんでした。

①は未熟卵率が一番高く、成熟卵率が一番低かったです。
良好胚率は③と比較して、①と②は有意に低く、着床率は①が有意に低くなっていました。
しかし、正常受精率、妊娠率、着床率の3グループ間での有意差はありませんでした。

(補足)
抗セントロメア抗体と体外受精、顕微授精に関する論文は多くはありません。
日本の学会でも報告は少ないです。
この論文ではサンプル数は少ないですが、抗セントロメア抗体陽性の患者20人における患者データは、年齢33.4±2.7歳(25-38歳)、初産婦9名、経産婦11名、不妊期間5.2±3.6年、成熟卵率は66.2%、正常受精率71.4%、良好胚数1.7±1.1個(採卵数10.1±3.7個)、妊娠率25%(5/20)、着床率13.0%(6/46)となっていました。

抗体を持っていない患者では、成熟卵率86.5%、正常受精率76.5%、良好胚数3.4±2.4個(採卵数11.0±4.1個)、妊娠率53.4%(62/116)、着床率30.5%(30.5%)と正常受精率以外は明らかな差があることがわかります。
やはり、抗セントロメア抗体の影響が考えられます。
しかし一方で、正常受精率が高いなという印象をもちました。
また採卵方法はロング法で、採卵3日後に新鮮胚移殖(6分割grade2以上の胚を多くて3つ移植)していました。

(まとめ)
抗セントロメア抗体は強皮症で限局皮膚硬化型の患者に認められ、特に
CREST症候群(石灰沈着、レイノー現象、食道の機能障害、手指硬化症、
末梢血管拡張症)の患者に多いことがわかっています。しかし、強皮症で
ない健康な人の中にもこの抗体は存在しています。

我々は、顕微授精において多前核がみられる方に対して、この抗体検査を勧めています。
検査の結果、未熟卵が多く、正常受精や分割率の低さはこの抗体によるものと判断しています。
この論文の施設(中国)では、不妊治療中の患者825名中20名に抗セントロメア抗体がみつかっています。
つまり約2.4%です。この数字をみると、この抗体を持っている人の中には検査をしていないだけで、検査してみると分かる人も多いのではないかと思いました。

現在、強皮症や膠原病の方以外は、顕微授精をして疑いがある方に検査を勧めています。
抗セントロメア抗体や抗核抗体陽性の方に対しては、成熟卵数を増やし、正常受精率や分割率をあげるために、ステロイドや
免疫グロブリン投与などをおこなっています。

今後も妊娠率をできる限り改善する方法や関係する論文があればご紹介していきたいと思います。