医局カンファレンスです。
人工授精(IUI)の関する興味深い論文があったので紹介します。(Fertility and Sterility Vol.108,No 5,2017 p764-769)
精子処理から人工授精までの時間で妊娠率に影響があるかを検討したものです。
2005年から2015年までの2154 IUIサイクルで同一人物のサイクルを除外した1136 IUIサイクルで検討しています。16mm以上の卵胞が認められた段階でHCG投与をおこない、40時間後にIUIを行うというものです。
採精後1時間以内に精子処理を行い、1時間以内にIUIにした群と翌日(24時間以内)にIUIした群に分けて検討した結果、妊娠率に有意な差はありませんでした。患者背景も両群に不妊原因、刺激方法、男女の年齢に有意な差はありませんでした。
妊娠した患者においても、両群の背景に有意な差は認められませんでした。
(解説)
今回このように時間をあけてIUIした理由としては、この施設の事情で、週末(土曜日)にはスタッフが減り、精子処理に使用する施設に制限があるため、金曜日にあらかじめ採精してもらい精子処理を行い、室温で保存し、翌日にIUIするというものです。今までの私達の常識からするとできる限り早くにIUI行うことがより良いと考えられていました。
これまでの論文でも精子処理後60分以内のIUIは60分以上よりも妊娠率が高いというものや精子処理後40-80分の間にIUIを行うと妊娠率が一番高いといったものがあり、今回の結果は驚きです。
筆者はこの理由として、以前の論文は症例数が少なかったり、コントロール群がないこと、また精子を保存する温度が37度でこの施設では室温で保存している違いではないかと分析しています。
35度で保温するよりも室温(23度)で置いておくほうが精子運動性が改善するといった論文もあります。
ただ、翌日にIUIする患者がIUIまでに性交渉をもっていた可能性があり、それが妊娠に影響しているかもしれないことと精液所見についてはふれられていないことが今後さらなる検討が必要だと思われました。
今回の論文のようにさすがに精子処理して翌日にIUIすることは勇気がいりますが、精子処理後に多少時間がたったとしても室温(20度台前半?)で保存しておくことで妊娠率の低下を招くことはないといえるのではないでしょうか。