医局カンファレンスです。
原因不明の反復流産の原因が精子核タンパク(プロタミン)の異常と関連しているかもしれないという論文が出ていたので紹介します。(Human Repro,vol.32,No.8pp.1574-1582)
(内容)
①2回以上の反復流産した患者のパートナーの精子、②正常精液の精子、③体外受精/顕微授精をおこなったパートナーの精子、について検討しています。
プロタミンにはプロタミン-1とプロタミン-2があります。
プロタミン-1とプロタミン-2mRNAの発現について定量しています。
それぞれについて①は②③よりも有意に高い結果になっていました。
しかし、プロタミン-1/プロタミン-2の比を比較すると①は②よりも有意に低い結果になっていました。
精液状態の比較では、①は②と比較して運動精子数、前進運動精子数が有意に低く、①と③についても①は総精子数、運動精子数が有意に低くなっていました。
前進運動精子率が低いとプロタミン-2が高いことと非前進運動精子率が高いとプロタミン1/プロタミン2比が低くなることもわかりました。
体外受精に関してですが、受精率はパートナーの年齢との間に相関はありましたが、精液状態やプロタミン発現量との相関はありませんでした。
(解説)
反復流産の約50%が特発性で、この20年間精子の関与が議論されてきました。
射出精子の核タンパクはプロタミンで、体細胞の核タンパクであるヒストンと異なり、DNAの結合を固く補強する役割をもっています。
よって、プロタミンの異常はDNA結合を脆弱化する可能性がありダメージに直結します。
今回、異常なプロタミンmRNA比率は反復流産に関係あることが分かったことは新事実であり、受精に重要なだけでなく、初期の胚において遺伝子発現に影響があるのかもしれないことが示唆されました。
また、受精後にプロタミンからヒストンへ変換されるのですがそれがうまくいかず、受精時にさまざまな変異が現れることがよく知られており、胚の成長において悪い影響がもたらされるかもしれないとも書かれていました。
しかしプロタミンに関してはまだ研究途中ではっきり言い切ることは難しいと言えます。
今回、プロタミンmRNA比率が正常精液の人と比較して有意に低く、またプロタミン-1、2ともに正常精液の人よりも有意に高い結果となり、明らかな違いが認められました。
以上よりプロタミンがまだどこまで関与しているかはわかしませんが、精子の異常により流産が繰り返されている可能性はあり、DNA損傷のないものを選択すべきであるといえるのではないでしょうか。
当院でもヒアルロ酸成熟精子選別法という成熟精子を選別してDNAの状態が良好な精子を選別する方法を、受精率や胚の分割が悪い方に勧めています。
この方法ではプロタミンについてはわかりませんが、DNA損傷が少ないものを選別することができるようになっていますので、流産を繰り返しておられる方にも有効かもしれません。