Day 7まで胚を培養する場合、Day 6で新しい培地に移すべきか?

Day 7まで胚を培養する場合、Day 6で新しい培地に移すべきか?

検査部の奥平です。

今回は、Day 7まで胚を培養する場合において、Day 6での培地交換が胚発育に及ぼす影響を検討した論文を紹介します。

Quality of embryos on day 7 after medium refreshment on day 6: a prospective trial.
Human Reproduction. 2021 Feb 22:deab038. doi: 10.1093/humrep/deab038.


対象・方法
本研究は、胚をDay 6でDay 3からDay 7まで同じ培地に留める(継続群、n = 620)か、Day 6で新鮮な培地(新鮮群、n = 603)に移動させるかをランダムに決定した培地曝露の前向き試験です。着床前遺伝子検査(PGT)の有無にかかわらず、Day 6で生検および/または凍結の基準を満たしていない周期から得られた、18~44歳の女性298人の胚が対象となっています。胚がランダム化された研究期間中に各女性が行った最初の周期のみが含まれました。

結果
PGTなしで体外受精を受けた女性200人とPGTを受けた女性98人を含む312周期(非PGT:209周期、PGT:103周期)から、合計1254個の胚がランダムに割り付けられました。
Day 7で生検および/または凍結可能な胚盤胞の割合はグループ間で差がありませんでした(新鮮群:10.1%(61/603)vs. 継続群:9.7%(60/620))。
40歳以上の女性では、Day 6で培地交換を行うと、Day 7に使用可能な胚盤胞を得られる確率が大きく低下しました(新鮮群:3.5% vs. 継続群:12.2%)。
また、43歳以上の女性では、新鮮群と継続群ともに、Day 7で使用可能な胚盤胞を得ることは出来ませんでした。
Day 6で廃棄されるはずだった胚の9.9%は、Day 7での生検および/または凍結の基準を満たしていました。

解説
体外で培養された胚は、一般的にDay 5で胚盤胞への発育を評価され、移植、凍結、生検の基準を満たさない場合は、Day 6まで培養されます。そしてDay 6で再評価し、品質基準を満たしていない胚は、通常、廃棄されます。しかし、Day 7まで培養を続けると、廃棄されるはずの胚のうち、ごく一部は使用可能な胚盤胞まで育つことがあります。過去の報告によると、35歳以上の女性の胚は発育に時間がかかる可能性があり、胚を培養して胚盤胞化させる期間を長くすることの重要性が強調されています。

胚を、同じ組成の新鮮な培地に移すことは、培養環境のリフレッシュ、栄養源の一新、代謝毒素(老廃物)のない環境にすることが出来るという理論上の利点があります。そこで本研究では、「胚をDay 6で新鮮な培地に移したら、Day 7で使用可能な胚盤胞を得る確率が上がるのでは」という仮説を立て実験を行っています。

その結果、Day 6で新鮮な培地に交換しても、どの年齢層でもDay 7の生検可能な胚や凍結可能な品質の胚の獲得率は増加せず、40歳以上の女性の胚の発育に悪影響を及ぼすことがわかりました。著者らの仮説は否定されることとなりましたが、本研究で注目すべきは、Day 6で廃棄されるはずの胚の約10%がDay 7で使用可能な胚盤胞にまで発育したという点です。よって、特に43歳未満の女性において、胚をDay 7まで続けて培養することは臨床的意義があると考えられます。