乳がんの方の排卵誘発法

乳がんの方の排卵誘発法

医師の船曳美也子です。

1)Ovarian stimulation in cancer patients
Hakan Cakmak,M.D.and Mitchell P.R,M.D. California F&S VOL.99NO.6/MAY 2013

2)Ovarian stimulation and fertility preservation with the use of aromatase inhibitors in women with breast cancer
Jhansi Reddy,M.D., and Kutluk Oktay,M.D. NewYork F&S VOL.98NO.6/DEC.2012

ホルモン感受性タイプの乳がん既往の方が」体外受精を希望される場合、排卵誘発による過剰な女性ホルモンが、もっとも心配だと思います。

今回の2つの論文は、レトロゾール(フェマーラ)を使った排卵誘発は、女性ホルモン値を上げすぎず、再発率も上昇せず、乳がんの方に安全で勧められる、というレビューです。

薬もあたらしいので10年以上といった長期の予後はでていません。
が、あまり恐れすぎるよりも、レトロゾールを使用しながら、女性ホルモンを頻回測定することで、安全に排卵誘発ができることは、知っていただきたいと思います。

以下詳細です。

2 )の論文は、乳がんの排卵誘発に関する60の論文をレビューしたものです。

それによると、歴史的に、体外受精では、排卵誘発により女性ホルモンが過剰に上昇するので、乳がんの方にIVFは適応されませんでした。しかし、アロマターゼインヒビター(letrozole)を卵巣刺激に用いることで、乳がんの方にも安全に排卵誘発を行えるようになりました。

というのは、排卵誘発時の女性ホルモン値は、レトロゾール使用時平均483pg/mLで一般排卵誘発の1464pg/mLより有意に低く(約1/4)、正常時の女性ホルモン量の範囲(<500pg/mL)になるからです。

そして、2002年1月から2007年4月の乳がん患者で比べると、79名のletrozoleとFSHで排卵誘発した群と、136名の排卵誘発しなかった群では、その7~63ヶ月後(平均2年後)の非再発生存率には差がありませんでした。

誘発法はCD2か3よりletrozoleをCD4か5よりFSH150か300単位を連日。卵胞系が13mをこえたらGnRHantagonistを追加し、卵胞が19~20mmでGnRhaトリガー。

(女性ホルモン過剰状態をつくるOHSSをさけるためにも、HCGではなく、GnRHaでのトリガーとします。
レトロゾールの場合、トリガー前の卵胞計は17~18mmではなく、19~20mmとします。)

1 )の論文は、乳がんふくめた、ガンの方の排卵誘発法についてのレビューです。

この中でも、女性ホルモン感受性ガンの排卵誘発法としては、自然、タモキシフェン(女性ホルモンレセプター拮抗剤)、レトロゾール(アロマターゼインヒビター)の3種類あるが、自然は、採卵数も1個で、キャンセル率も高くおすすめできない。
タモキシフェンは悪くない、が、レトロゾールのほうが、女性ホルモンも上げず、かつ、採卵数、授精卵数も多く、また、短期の再発も増やさない。
よって、女性ホルモン感受性ガンの方の妊孕性保存には、レトロゾールとゴナドトロピン(FSHやHMG)併用排卵誘発法を強く勧める、とあります。