医師の船曳美也子です。
卵子は、排卵するまで、顆粒膜細胞などで構成される卵胞の中にいます。
卵子がいつ作られるかというと、母親の胎内にいるとき。
胎生5か月、すべての卵胞は作りきられて、活動を休止します。それが原始卵胞です。
思春期になるとホルモン変化などが誘因となり、月に1000個の割合で原始卵胞が活動を再開します。
原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞→排卵前卵胞→排卵、という流れです。
原始卵胞は、いったん活動が再開されると、もとにはもどりません。
1,000個のうち1個は約6か月後に排卵しますが、残りは、途中で活動を停止し分解吸収されます(これを「卵胞閉鎖」といいます。)
この原始卵胞の活動を再開させるトリガーが何か。
実は、この、原始卵胞の活動再開は常に起ころうとしていて、FOX3という蛋白がそれを抑制しています。
ですから、FOX3がなくなると、原始卵胞の活動再開に抑制がきかず、どんどん原始卵胞を消費してしまい、閉経になります。
反対に、FOX3が発現していると、なかなか原始卵胞は減りません。
このFOX3という蛋白ですが、それをさらに抑制するPI3K-Akt経路があり、そこをさらPtenやTac-1が抑制するという制御構造になっています。
また、紫外線、低酸素、低栄養、酸化ストレスといったいろいろなストレスが、このFOX3蛋白の発現に影響することもわかっています。
今回の論文では、まず2DGという物質で糖欠乏状態をつくりだし、人間やマウスの卵巣細胞でFOX3が発現するかを調べました。実際にFOX3の発現が増えることを確認したのち、2DGを投与したマウスの卵巣で一次卵胞の数を確認したところ、なにもしないものより、56%一次卵胞の数が減っていました。
すなわち、飢餓状態でFOX3が発現し、原始卵胞の活動再開が抑制されたため、一次卵胞の数が減ったと考えられます。
これはマウスの実験ですが、日常でも、痩せの人がさらにダイエットしておこる排卵障害はしばしば問題になります。
体重減少性排卵障害の特徴は、排卵が回復するのに時間がかかること。
体重減少性排卵障害の原因が、皮下脂肪から分泌されるレプチン量の問題だけなら、体重が増えるとすぐ排卵は正常化するはずなのに、なぜ時間がかかるのか日頃疑問に思っていました。
が、低栄養状態が、原始卵胞の活動再開を抑制していたのであれば、栄養を正常化してからも排卵の効果がでるまで6か月かかるわけです。
体重正常化と排卵回復のラグタイムには、こういう機序が働いているのかもしれません。
Characterization of a mechanisum to inhibit ovarian follicle activation
Sarah J.Barilovits,Ph.D. Florida Fertility&Sterility
vol.101No.5May2014p1450-1457