医師の船曳美也子です。
今回は、2011年と2014年の論文を参照したいと思います。
テーマは『多核胚からの出産』です。
「Self-correction in tripronucleated human embryos」Noelia Grau,Ph.D.,et al : p951-956, Fertility and Sterility, vol.96, No.4, October 2011
「Chromosomal complement and clinical relevance of multinucleated embryos in PGD and PGS cycles」
Ahmet Yilmaz, et al: Reproductive BioMedicine Online(2014)28, 380-387
精子が卵子に侵入したのち、精子は雄性前核を卵子は雌性前核をだすことで受精が完了したとみなされます。このように前核が雌雄二つの2前核の胚を正常受精胚とよびます。
前核が3つの3前核期胚は異常受精とされ、体外受精や顕微授精では約5%程度みられます。
体外受精での3前核期胚は、おもに、多精子受精が原因のことが多く、顕微授精での3前核期胚は、卵子の第2極体の放出不全が原因と考えられます。また、3前核期胚は染色体異常の可能性が高いと考えられています。
2011年の論文では、体外受精で18個、顕微授精で32個の3前核期胚を培養し、その分割期胚でPGS(出生前染色体検査)を一度行い、さらに培養をつづけ、胚盤胞で再度PGSを行いました。
すると、体外受精での3前核期胚の細胞は、胚盤胞までそだっても染色体異常がほとんどだったが、顕微授精での3前核期胚の場合、分割期胚では染色体の数異常があっても、おどろくべきことに、自分でなんらかの修正機構が働き、胚盤胞まで育ったもののうち50%は、正常染色体数になっていたのです。( は彼等の仮説です。)
2014年の論文は、多核の胚に対し、Day3でPGSを施行し、正常核型のものを胚移植したところ、3例の分娩をみとめたというもので、報告としては世界初だそうです。
なぜ、第二極体放出不全がおこるのか、ミトコンドリアでのエネルギー不足などもいわれていますが、はっきりわかってはいません。
しかし、これらの報告より、多核受精を繰り返すかたでも出産の可能性があると考えられます。
みなさん、あきらめないでがんばりましょう。