医局カンファレンスです。
子宮筋腫は子宮の壁の中にできる代表的な婦人科の良性腫瘍のひとつです。
厄介なことに、良性でありながら短期間で突然大きくなったり、数が増えたりすることがあります。
子宮筋腫は子宮壁から成長する方向によって、次の3つのタイプに分かれます。
- 粘膜下(ねんまくか)筋腫:子宮内膜側へ向かって成長し、子宮の内腔を変形させる。着床不全の原因となり、少なくともその一部は、子宮鏡手術で取り除くことによって、体外受精・胚移植による妊娠率が改善することが明らかになった。
- 筋層内(きんそうない)筋腫:子宮の壁の中で成長し、子宮の内腔を変形させない。粘膜下筋腫ほどではないものの着床率が低い。
- 残念ながら、筋層内筋腫を手術で取り除いても、体外受精・胚移植の成績は改善しなかったという報告が相次いでいる。漿膜下(しょうまくか)筋腫:子宮の壁から外側へ向かって成長し、子宮の内腔を変形させない。多くの研究が妊娠に影響しないことを支持している。
このように最も取り扱いに苦心するのが、筋層内筋腫です。
筋層内筋腫の個数やサイズ、位置などの因子が、どのように妊娠に影響するかは、ほとんど分かっていません
(Pritts EA, et al. Fertil Steril. 2009; 91: 1215–1523.)。
今日紹介する中国・済南市からの報告(L Yan et al. Fertil Steril. 2014;101:716-721.)では、2009年から2011年までの3年間に、体外受精・顕微授精を受けた10,268人の不妊症女性のデータベースをもとに(注1)、子宮筋腫を8つのタイプに分類して、そのART妊娠への影響を検討しています。
子宮筋腫核出術を受けた患者は除外して、最終的に体外受精・顕微授精を受ける子宮筋腫を合併した不妊症患者249人(筋腫群)と子宮筋腫を持たない249人(非筋腫群)を比較しています(注2)。
生化学妊娠率、臨床妊娠率、胚着床率、について、筋腫群と非筋腫群で有意差はありませんでした。
一方、最大径2.85cm以上の筋腫がある場合、および筋腫核径の合計が2.95cm以上の場合には、それ以下の筋腫を持つ女性に比べて、生産率が有意に低いことが明らかになりました。
ポストホック・パワー検定の結果、最大径2.85cm以上の筋層内筋腫は、筋腫の無い場合に比べて、生産率にネガティブに影響すると報告しています。
当院では、上述の理由から、粘膜下筋腫に対する子宮鏡手術を積極的に行っています。
また、筋層内筋腫については、週一回のカンファレンスで手術の可否について個別に慎重に検討しています。
今回の研究は筋層内筋腫のサイズによる取り扱いにヒントを与えてくれるかもしれません。
(注1) 済南市は山東省にある人口約680万人の都市です。このデータベースが示すとおり、経済発展に支えられて中国のART治療はすさまじく増加・発展しています。
(注2) 慎重に249人の対照患者を選んでいるようですが、月経3日目のFSH基礎値が筋腫群で、非筋腫群に比べて低くなっています。また有意な差は無いもののE2基礎値が筋腫群で高くなっています。
実は子宮筋腫はE2を合成・分泌することが知られており、何か関係しているように思えますが、論文の中には、この件についての議論は無いようです。