反復着床不全・着床障害の経験、 IFCE受検はその後の妊娠・出産に影響するか?…その1

反復着床不全・着床障害の経験、 IFCE受検はその後の妊娠・出産に影響するか?…その1

医局カンファレンスです。

形態良好な胚/胚盤胞を繰り返し移植しても妊娠が成立しない反復着床不全。
このような不妊女性がその後妊娠した場合にどのような経過をたどるのか、実はよく知られていません。

当院では反復着床不全の方にIFCEを行い、良好な継続妊娠率を得ています(注1)が、分娩施設へ転院された後、順調に過ごされているかどうか常に気懸かりに感じてきました。

胚着床は、胚が内膜に正しい方向で向かい合う「対置」、両者間の糖類を中心とした「接着」、酵素を利用して胚が子宮内膜を壊しながら内側へ潜り込んでいく「侵入」の大きく分けて3つの過程を経て進行していきます(注2)。

IFCEでは子宮内膜を一部引っ掻くため、もしかしたらこの三段階が重複して進行したり、あるいは順番が逆転したりして、生理的でないことが起き、着床後に影響を及ぼす可能性が考えられます。

実際に妊娠を契機に血圧が上昇する「妊娠高血圧症候群」や高血圧と蛋白尿を合併する「子癇前症(しかんぜんしょう)」などの妊娠合併症は胚着床の異常が原因となって起きる病気であるとする考え方があります(注3)。

本格的な導入から4年を過ぎ、IFCE後に妊娠に成功された反復着床不全の方からのアンケート返答、分娩施設からの経過報告書が相当数集まってきたため、妊娠・分娩時合併症の発症頻度についてこの機会に調べてみることにしました。

まず結論を申し上げますと、今回の調査では「IFCEや反復着床不全の経験によって、その後の妊娠・分娩時合併症が増加する心配は無い」ことが分かりました。

(注1)
このデータをまとめたわれわれの論文が、査読付き国際専門誌に最近出版されました。
「Single curettage endometrial biopsy injury in the proliferative phase improves reproductive outcome of subsequent in vitro fertilization-embryo transfer cycle in infertile patients with repeated embryo implantation failure」
(増殖期中のキュレットを用いた単回子宮内膜損傷は反復着床不全患者の次周期胚移植成績を向上させる)
(Terumi Hayashi, Kotaro Kitaya, Yoshihiro Tada, Sagiri Taguchi, Miyako Funabiki, Yoshitaka Nakamura. Clinical and Experimental Obstetrics and Gynecology 2013年; 40巻: 323-326ページ. )

(注2)
今年4月9日のブログ、着床に必要な子宮内膜の炎症とは…その5 も、ご参照ください

(注3)
興味のある方には、まず「日本妊娠高血圧学会ウェブサイト」にある「妊娠高血圧症候群Q&A3」のご一読ください。