医局カンファレンスです。
最近、慢性子宮内膜炎と不妊症に関連した論文がオランダ/ベルギーの研究グループから発表されました。(Fertil Steril, 89, 2011)
43歳未満、自覚症状のない、超音波で子宮に異常を認めないこれから体外受精に進もうという不妊症女性に対する介入が治療として有効かどうか調べる臨床研究の一環として行われたものです。
対象患者数が650人以上と多く、これは評価されるべき点です。
ただ、評価項目によっては、さらに対象数が増えると差が出そうなデータもあります。
子宮鏡、子宮内膜生検を行い、その後の妊娠経過を追跡しています。
内膜生検でサンプル量不足のために診断不能だったケースが約10%ありますが、これは多すぎます。
子宮鏡が行えれば、まず100%内膜は採ることができます。
その後の検体処理に理由があったのかもしれません。
慢性子宮内膜炎の診断は、原則的に古典的方法で行い、1名の病理医が疑わしいと判断した時のみに特殊染色で確定しています。約3%に慢性子宮内膜炎が見つかったとのことですが、これまでのわれわれを含む (Am J Reprod Immunol, 66, 2011) さまざまな報告に比べてきわめて低い数字で、この診断法の精度には、大いに問題ありと云えます。
特殊染色法に比べて、古典的染色法では形質細胞(慢性子宮内膜炎)の検出率は明らかに劣ります(約2-3割見逃してします)。正確な診断のためには、特殊染色が全例に行われるべきでありました。
慢性子宮内膜炎患者は、高い頻度で子宮内膜ポリープを持っていたと記述されています。
超音波では検出できず、子宮鏡で初めて診断できたポリープですのでサイズが小さかったか、診断が難しい位置にできたものと推測できます。
慢性子宮内膜炎のある・なしで移植胚あたりの臨床妊娠率には差がありませんでした。
また、数字だけを一見したところ、慢性子宮内膜炎患者のほうが、通算した生児獲得率の成績がよいので驚いたのですが、統計処理を施すとこれにも差はなかったとのことです。
ところが、よく読むと内膜炎と診断された患者の多くに抗生剤が投与されたとあります。
それも、かなり強力な抗生剤です。
この点は、治療不要とする結論に矛盾します。
「慢性子宮内膜炎を想定して不妊症患者全員にルーチンで抗生剤を使う意味は薄い」という結果については、理解できなくはないですが特定の因子を持つ不妊症患者さんについては、異なる結果が予想されます。
当院では、反復着床不全+慢性子宮内膜炎の方に限定して抗生剤治療を行っていますが、治療後に妊娠に成功している患者さんが、このところ増えてきています。
現在その後の妊娠経過を追跡中です。客観的に信頼できるデータが揃いましたら、発表したいと思います。