医局カンファレンスです。
前回 (1月5日) の続編です。
これまで「着床不全と不育症は分けて考えるべき」とブログでコメントしてきましたが、これを裏付ける論文が最近いくつか出てきていますので紹介します。
Koot YE, et al. Human Reproduction 2011;26(10):2636-41.
妊娠を考えていない46人103周期を追跡すると、30人が反応を示し、うち24人が臨床的妊娠、6人が流産となった。一方、原因不明不妊症患者の尿中のhCG量(妊娠反応の強さ)を毎日連続測定したところ、60人133周期のうち、たった1人に反応が確認され、臨床的妊娠が継続された。
ケミカルを含めて流産例はいなかった。つまりは超初期流産が原因不明不妊症の患者の中に潜んでいるとは考えにくい。Salker MS, et al. Nature Medicine 2011;17(11):1509-13.
この報告ではSKG1というイオン輸送に関わる酵素の分泌期中期(着床にあたる時期)の子宮内膜の発現状態に注目しています。原因不明不妊症患者の内膜では、出産歴のある女性に比べるとSGK1の発現量が増加。
一方で、習慣流産女性患者の内膜ではSGK1の発現量が低下していたとのこと。
さらに、活性化した変異型SGK1を子宮管腔上皮で発現したマウスは着床不全となったのに対して、 SGK1を持たないマウスでは着床不全は起きず、妊娠成立後に子宮-胎盤の境界面からの出血、胎児の成長遅延・死亡がしばしば見られたそうです。
あるひとつのタンパク質の過多状態と過少状態が、着床不全と不育症という異なる結果をもたらしたという例です。
2つ目の論文でもうひとつ注目すべき点は、(これは他の報告でも示唆されていたことですが)酸化ストレスが妊娠に悪影響を及ぼす可能性をはっきり示したことです。
不妊症・不育症の原因として、“子宮内膜の血流不全”がよく挙げられてきましたが、「酸化ストレス・妊娠悪影響説」は、しっかりした根拠のないこの子宮内膜の血流不全 “仮説”に一石を投じてくれるものとして、非常に興味を持ちました。