抗リン脂質抗体と着床不全

抗リン脂質抗体と着床不全

新年あけましておめでとうございます。
医局カンファレンスです。

早速ではありますが、今年は長年議論されながらもはっきりした答えの出ない、抗リン脂質抗体と不妊症の関係から始めたいと思います。
抗リン脂質抗体とは、自分の細胞を攻撃する異常な蛋白(自己抗体)の一種です。
なぜこのようなものが体内で作られるのかは、まだわかっていません。
抗リン脂質抗体は血液の中を循環し、血管を裏打ちする血管内皮細胞の表面のリン脂質を攻撃します。
その結果、血管の中で血液が凝固して塊(血栓)が作られ、脳梗塞や肺塞栓(エコノミークラス症候群として有名)の原因となる、おそろしいものです。

抗リン脂質抗体と習慣流産(流産を3回以上繰り返す不育症)や中期流産・死産との因果関係については、以前からよく調べられています。特に抗ベータ2GP1抗体、またはループスアンチコアグラント陽性の患者様の流産予防に、抗凝固療法(アスピリン/ヘパリン療法)が有効であることが知られています。
われわれも、不育症患者様に対して抗リン脂質抗体検査をご案内し、陽性の方には治療を勧めています。

では、抗リン脂質抗体は不妊症の原因となるか?
まだ決着はついていませんが、過去の信頼性のあるデータのみを抽出すると、「抗リン脂質抗体陽性・不妊症患者の妊娠成績は、抗凝固療法によって改善しなかった」と云えます。

また原因不明不妊症や着床不全の方に対しても、慣習的にアスピリンが処方されてきましたが、同じく効果は認められていません。

当院では、現時点で着床不全と不育症は分けて診療するべきであると考えており、それぞれに対して異なる検査・治療プログラムをご案内しています。
悩まれている方は、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献
Buckingham KL, Chamley LW. Journal of Reproductive Immunology.
2009;80(1-2):132-145.
Lambers MJ, et al., Fertility and Sterility. 2009;92(3):923-929.