刺激採卵周期と自然月経周期では子宮内膜の状態は大きく異なる

刺激採卵周期と自然月経周期では子宮内膜の状態は大きく異なる

医局カンファレンスです。

HMG, HCG, GnRHアゴニスト, GnRHアンタゴニスト, クロミッドなどの排卵誘発剤は体外受精周期の排卵誘発に欠かせないものになっていますが、子宮内膜へも影響し、自然周期とは異なる状態を誘導し、その結果、胚受容性の低下、つまり着床不全・着床障害の原因となるという報告が、最近相次いでいます。

今日取り上げる論文は、nucleolar channel system (NCS) と呼ばれる子宮内膜上皮細胞(着床の時に胚盤胞がまず最初に接着する細胞)の内側の超微細構造物が現れる時期を調べてみると、HMG/GnRH antagonist刺激周期と自然月経周期では、まったく違ったというものです (Zapantis G et al., Human Reproduction 2013;28:3292-3300)。

この研究ではボランティアの健康なエッグ・ドナー女性7名を対象にしています。
同一女性より子宮内膜生検を、自然月経周期、HMG/GnRH antagonist刺激周期、HMG/GnRH antagonist刺激+黄体補充周期の3つの周期にそれぞれ3回採っています。
前周期の影響を避けるために、各周期の間には休憩周期を1周期以上設けています。

NCSを検出する抗体を用いて蛍光染色し、比較したところ (*注)、自然月経周期では、NCSは月経周期第14、16日目には確認できませんでしたが、20日目でいきなり出現がピークとなり、以後減少していきました。
HMG/GnRH antagonist刺激周期、HMG/GnRH antagonist刺激+黄体補充周期ではNCSは月経周期第16日目で早くも出現しました。ほかの時期の出現頻度は、自然月経周期と差は有りませんでした。

以上から、

  1. 自然月経周期第16日目では、子宮内膜上皮細胞にNCSはまったく出現しないが、HMG/GnRH antagonist刺激周期では、全例に出現した。
  2. 刺激周期の黄体補充の有無は、NCS出現時期に影響しなかった。
  3. NCS出現期間は、刺激周期では自然周期より長い

と結論しています。

サンプル数は少ないですが、全例で同じ傾向を示しています。

諸国から、凍結融解胚移植の成績が刺激周期中の新鮮胚移植の成績より優れていることが報告されています。
ひとつには、胚凍結・保存・融解技術がこの約10年間で大きく進んだことがありますが、刺激周期では子宮内膜が、自然周期とは大きく異なって着床に向いていない状態であることを示唆しています。

この研究グループは、ASRMでも、私と同じセッションでこの内容を口演していました。
「凍結融解胚移植のときに用いるホルモン補充周期と自然周期で差があったか?」
代表者に質問したところ、「もうしばらく待ちなさい」との回答でした。


注:NCSの顕微鏡写真はHuman Reproduction2013年12月号の表紙を飾っています。