理事長の中村嘉孝です。
かの有名な吉村医院のドキュメンタリー映画で、スペインの国際映画賞を受賞したそうです。「自然分娩で産めない命は、助かっちゃいかん命」とおっしゃる吉村先生は確信犯ですので、何を申し上げることもありません。
助かるはずであった子どものことを思うと怒りがこみ上げてきますが、親の身勝手で産まれ、親の身勝手についていくのが子どもである以上、それこそ、運命なのでしょう。
とはいえ、実際には吉村医院からの高次病院への搬送は数多くあります。
ネットでは、吉村医院に怒る産科医から「だったら、自分たちだけでやれ。重症になってからと搬送して迷惑をかけるな」という議論もよく目にします。
ただ、妊婦自身が危険をわかった上で引き受け、これ以上の危険は許容できない、という段階で搬送となるのは、助産院での分娩でも同じことです。
私が不快に思うのは、むしろ、そのような場合の妊婦や家族の姿勢です。
医者をにらみながら、「仕方ないから現代医療を受けるが、余計なことをして何かあったら許さないからな」という雰囲気です。
このドキュメンタリー映画を不快に思うのは、単なる自然賛美ではなく、その賛美の根底に、そういった現代医療へのステレオタイプの批判があるからです。
監督はインタビューで次のように答えています。
「日本のお産の現場は医者が主体で陣痛促進剤などを使い、女性の力だけで分娩を行うのは全体の2%程度と言われています。」
公式ページのストーリー紹介の中には、こんな記述もありました。
「緑さんは、最初のお産を涙ながらに振り返る。『知らないうちに陣痛促進剤を打たれて、分娩台に乗った瞬間に吸引されて、お腹を押されて……だから、生まれた瞬間、自分が大事で、子どもを可愛いと思えなかったんです』」
自然主義的誤謬がつきまとうのも人間としての常で、かく言う私も「ゼロ・コーク」を飲むときには、緑茶にしておくべきだったかなと思ってしまいます。
自然主義を信奉し自ら実践することも個人の自由ですので、縄につかまって産もうが、水中で産もうが自己責任でされたらよいと思います。そして、もし手に負えなくなって搬送されることになったとしたら、それも仕方ありません。ただ甘んじて、現代産科学の治療をお受けになられたらよいと思います。
別に、助けてもらったと感謝する必要もありません。
ただ、自らが信奉する自然主義の挫折を、近代医療とそれに従事する者への理不尽な敵意へと転化することはやめていただきたい。いかに気分悪くとも、その現代医学こそが、母体死亡率や周産期死亡率を激減させてきたことは明白な事実です。
科学的事実への無理解と浅薄な自然主義、そしてなによりも、甘え切った子どもの論理を助長するこの映画が高く評価されることを、私は残念に思います。
「玄牝(げんぴん)」とは寡聞にして知りませんでしたが、ネットで調べると女性の外性器のことのようです。