理事長の中村嘉孝です。
前回、MHCの型が異なる男性の「匂い」に女性が惹かれるという話を書きましたが、生殖医学の世界では、MHCの型が近いことが流産の原因になるといわれてきました。
これもはっきりしたメカニズムは不明なものの、進化論的な説明がなされ、強い子孫をつくるためには、MHCが多様なほうがよい、夫のMHCの型が近すぎると免疫系に異物として認識されず、その場合に流産となってしまうのだろうと考えられてきました。
ということは、夫のMHCをなんとかして異物として認識させればよい、ということで、「夫リンパ球輸血」という治療法が考え出されました。
夫の血液からリンパ球を取り出して、妻に皮下注射することで、夫のMHC抗原に対して免疫反応が起きるように誘導するのですが、1981年にLancetという有名な医学雑誌に発表されて以来、さまざまな施設で実施され、有効な治療であるという論文が相次ぎ、1994年に行われた国際共同研究でも、有効性が証明されたのでした。
ところが、1999年にLancetに発表された大規模研究の結果は「有効性がない」というものだったのです。
その後、「いや、こんな場合なら有効だ」とか、いまだに議論が続いているわけですが、まあ、少なくとも、初期に発表されていたほどの高い有効性はなさそうです。
しかし、どうして科学の世界で、このようなことが起きるのでしょうか。