特区

特区

理事長の中村嘉孝です。

先日、「西成区だけ、生活保護の医療制度が変更になる」ということで、医師会館で説明会がありました。

当院は、そもそも、生保の取り扱い指定ではないので関係ないのですが、話題の西成特区構想の一つということでしたので、興味本位で出かけました。
西成生まれ、西成育ちの西成区民である私としては、「西成」の悪いイメージを改善してくれる特区構想に大きな期待を寄せているところです。

しかし、その内容は「西成区民の生活保護患者だけは、かかれる医療機関を一ヶ所だけにする。」というもので、特区どころか、「これって人権侵害じゃないですか」と思ったのですが、居並ぶ市の担当者は、「もう、4月に実施することが決まっているのでご理解を」と繰り返すだけでした。

もちろん、メチャクチャをやっている生保患者や医療機関が多いのは事実で、行政がそれをなんとかしようとするのは当然のことだと思います。
しかし、西成に限定して、というのはひどい話で、どこであっても是々非々で、同じ対応をすべきだと思います。そして、「医療機関を限定」などといった場当たり的な対応ではなく、福祉制度の根本的な矛盾を解決する対策をすべきだろうと思います。

生活保護だと自己負担が一切ないわけですから、ちょっとした症状で、喫茶店に暇つぶしでもいくように気軽に医療機関にかかることができますし、「病気だから働けない」という診断は、本人にとっても病院にとっても好都合です。

このようなモラル・ハザードを防ぐために、一回、何十円かの自己負担を導入しようという案もあったのですが、反対が強くて、なくなりました。
まあ、生活保護を受けている病人からお金を取るというのも矛盾しています。
しかし、それならば逆に、その月は医療機関にかからなかった人に、いくばくかの報奨金を出せばよいのです。それだけで、普通はがまんする程度の軽い症状で、喫茶店代わりに医療機関に行くようなことはなくなります。

いうなれば、「北風と太陽」の違いでしょうか。

もちろん、福祉制度の矛盾を解決するために提唱されるこの種の提案はいくらでもあり、有名な例を挙げれば、ミルトン・フリードマンという経済学者の「負の所得税」というものなどがあります。
しかし、理論的に優れた方法だと学者にはいくら分かっていても、現実にそれが採用されるわけではありません。

残念ながら、社会的議論では論理より感情が支配します。大衆心理をうまく掴んだ橋下市長が、これまでの利権や腐敗の構造を正すのは一向に結構なのですが、むやみな破壊と「バブルよ、もう一度」的な都市政策ではなく、論理的に優れた政策をお願いしたいと思います。

ところで、皆さん「西成、西成」といいますが、あいりん地区など、いわゆるドヤ街のイメージや治安の悪いところは一部です。他は、西成区といっても普通の街です。

とくに私どものある玉出近辺は、「西成のビバリーヒルズ」と呼ぶのにふさわしいところだと思っています。
実際、「○○ヒルズ」という名前のマンションも、たくさんありますし…。