理事長の中村嘉孝です。
イタリアの豪華客船の座礁事故で、船長が先に避難したということで拘束されているようですが、日本でも、かつて、船長が船を離れずに最後まで指揮をとるという義務が、船員法に定められていました。
しかし、この「船長の最後退船義務」は、いくつかの悲惨な海難事故の後、議論の末に削除されました。
結局は、「命あっての物種」ですから、生命を賭けることを法的義務にはできないということでしょう。
船長や航海士のように命懸けではありませんが、医療職にも色々な職業上の要請があります。
近年は、これらを法規によって義務付けようとするのですが、それが本当に望ましいあり方なのでしょうか。
子どものころ、船長が船と運命を共にする場面をテレビで見て、外国航路の船長を引退していた祖父に、「本当にそんなことするの」とたずねたら、「当たり前だ」という答えが返ってきました。
もちろん、それは「法規上、当たり前」という意味ではありませんでした。
映画『タイタニック』では、船が沈みゆく中、軍の高級将校たちが、サロンで何事もなかったかのようにタバコをくゆらしている姿が描かれていました。
将校といっても、彼らは船のオフィサーではなく、旅客として乗っていただけです。
残っていても、救助活動には何の役にも立たないので、法規上も意味がありません。
しかし、それは軍人としての然るべき振る舞いでした。
これらは美学の問題であって、法律の問題ではないと、私は思います。