レスキューIVM の成績を向上させる研究を初めて国が承認

レスキューIVM の成績を向上させる研究を初めて国が承認

理事長の中村嘉孝です。

当院は、未成熟卵子を体外で成熟させるレスキューIVMを15年以上前より世界に先駆けて提唱してきました。
この技術により、通常は受精しないため廃棄される未成熟卵子であっても、せっかく採卵された卵子ですので1つも無駄なく不妊治療に使用できることを目指しています。

報道でご存知かもしれませんが、このレスキューIVMの成績向上を目指す研究計画を厚生労働省と文部科学省に申請しておりました。

未成熟な卵子、体外で育て受精 大阪のクリニックが研究
(朝日新聞、2019年6月13日朝刊)
受精卵作製計画を公表 大阪の医療法人 国の初承認施設
(毎日新聞、2019年6月13日朝刊)
人の受精卵、大阪で作製へ 国内初、生殖補助医療研究
(日本経済新聞、2019年6月13日朝刊)

先日、厚生労働大臣と文部科学大臣から承認を得ることができましたので、ここにご報告申し上げます。

この申請は初めてのケースであったため当院だけでなく厚生労働省と文部科学省の担当者も手探り状態で進めてきました。申請の準備開始から数えるとここまで約5年もかかっており、大変嬉しく思っています。同時に、やっと成熟卵子が十分取れずに悩んでいる患者の皆様を救える手段を探る道が開けたことが何よりも嬉しいです。

研究目的のヒト受精卵作製を初承認 大阪のクリニックが計画
(NHKニュース、2019年6月14日報道)

何事も裾野が広いほど頂は高いものです。当院が生殖補助医療研究目的でヒト受精胚を実際に作製するパイオニアとなったことで、この後に続く他の研究グループは、私たちが近いうちに論文などで公開する研究プロトコールを参照することで、申請をしやすくなりました。そして他の研究機関・医療機関が続くことで生殖補助医療研究の裾野が広がり、不妊に悩むより多くの患者様、これまでは妊娠を望めなかった患者様が妊娠をする手助けをできるようになることを期待しています。


〔レスキューIVMとは〕

この研究の対象となるレスキューIVMについて少し詳しく説明させてもらいます。

体外受精に使用する卵子は、薬剤で刺激することで卵巣内の未成熟卵子を成熟させて採卵します。こうして採卵される卵子は、ほとんどが成熟卵です。しかし中には未成熟卵子も混じっています。この未成熟卵子は受精できませんので、これまでは不妊治療に使用されず廃棄されていました。

成熟卵子が十分採卵できた場合には、未成熟卵子を廃棄する選択枝があります。しかし患者様によっては、十分な成熟卵子が採卵できずに未成熟卵子ばかり、それも続けて未成熟卵子ばかりということがあります。

このような患者様のために何とかしたいという思いから、未成熟卵子を体外で成熟させる当院独自のレスキューIVMという培養法を開発しました。その結果レスキューIVMにより、これまで受精能が無いと廃棄されていた未成熟卵子を成熟させることができるようになり、成熟させた卵子を受精させて胚移植、そして妊娠・出産まで望めるようになりました。

しかしレスキューIVMにより成熟した卵子の受精率や胚盤胞到達率の平均は、体内で成熟した卵子での平均に比べると劣ることも事実です。成熟卵子とはいっても、体内で成熟した卵子とレスキューIVMによる物では何かが違うということです。


〔レスキューIVM研究の概要〕

今回倫理指針への適合が確認された当院の研究「ヒト未成熟卵子のin vitroにおける成熟誘導」では、レスキューIVMの培地に化合物を加えることにより受精率と胚盤胞到達率の向上をめざします。

添加する化学物質は、安全性が高く動物実験により効果が認められた物質を使用します。ヒトの未成熟卵子でも同様の効果が期待できますが、時として動物とヒトでは結果が異なる場合があります。もしかするとヒト以外の動物では成績が良くなったとしても、ヒトではむしろ成績が悪くなるかもしれません。このような可能性があるため、動物実験で効果があったからと言ってそのまま不妊治療に使用できません。

そこで、この研究計画を行うことで、実際に改善を期待する添加物質入りのレスキューIVM培地で未成熟卵子を成熟させて、動物実験と同じように受精率や胚盤胞到達率が向上するか調べます。

レスキューIVMの成績が向上すれば、実際の臨床応用にはまだまだハードルはありますが、レスキューIVMに期待する患者様のより大きな希望につながります。
そのためにも一日でも早く研究を開始したい思いです。