スクランブル

スクランブル

理事長の中村嘉孝です。

同時多発テロから10年目となる11日、機内のトイレから長時間出て来ない乗客がいるとデンバー発デトロイト行きの航空機から通報があり、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が戦闘機2機をスクランブル発進させたとのこと。

この報道をみて、盧溝橋事件を思い出しました。どこまで本当かわかりませんが、一人の兵士がトイレにいっており、行方不明とされたことで戦闘が始まったとも言われるこの事件は、その後、支那事変へとつながっていきました。

さて、15年ほど前のこと。ある病院で当直をしていた夜中の3時ごろ、救急隊から「おなかの激痛を訴えている妊婦を搬送する」との連絡が入りました。
しばらくしてストレッチャーで運ばれてきた患者さんは、脂汗を流して悶絶しています。
ただ、どうしても診察の前に済ませたいと、処置室の横のトイレに入られました。

「妊娠初期の急性腹症といえば卵巣嚢腫の茎捻転か、いや、場合によっては、内外同時妊娠による子宮外妊娠のこともある。虫垂炎なんかの可能性もあるし、外科の対診も必要だな。いずれにしても、緊急手術の心積もりはしておかないと…」

看護師と一緒に緊迫した面持ちで待っていると、出てきた患者さんが一言。
「ごめんなさい。トイレにいったら、すっきり治りました。」
そして、診察もなく、そのまま、お帰りになられました。

便秘の腹痛で緊急搬送というのは、実はよくあります。
「安易に救急車をつかうなんて」というご意見もあるでしょうが、実際、患者さんにしてみたら何が原因の痛みか、後にならないとわからないですから、仕方ないと思います。

医療や安全保障にかぎらず、近年、あらゆる行政、企業に対して、危機対応への期待、要求水準が高まっています。しかし、現実は、ドラマや映画のようにいきません。
当直医だって呼び出しの時にトイレ中のこともあります。

私も最中に携帯を取ろうとして、水の中に落としてしまったこともありました。
さすがに、戦闘機のスクランブル要員は、そんなことのないように、フル装備のまま15分交代で待機をしているらしいですが、現実には色々あるのでしょうね。

先ほどの飛行機ですが、空港に着陸後、乗客を拘束して調べたものの何もなく、無事、解放されたとのことでした。