理事長の中村嘉孝です。
新妻が、夫の誕生日のサプライズのつもりで掘った落とし穴が深すぎて、二人で嵌って亡くなったという気の毒な事件について、報道の中に次のようなものがありました。
「県河川課は29日、海岸の土地で深さ1.5メートルを超える穴を掘る場合、海岸法の規定で県知事の許可が必要となることを明らかにした。
同課によると、死亡した夫婦やその友人からは、許可申請が出ていなかった。
ただ、仮に申請されたとして、落とし穴を掘る目的では、許可は出さないという。海岸法では、無許可で海岸の土地を1.5メートルを超えて掘削した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。」
(読売新聞2011年8月30日)
事実、その通りなのでしょうが、このような思考回路に暗澹たる気持ちになりました。
「誕生日のサプライズに落とし穴」という子供じみた浅はかさは言うまでもありません。しかし、浅はかな行為であったからこそ、その、あまりに無邪気な思いがもたらした悲劇に心打たれるのです。
その中で、法規制がどうこう論じるのは、あまりに場違いです。
さて、不妊治療の法規制についての議論にも、私は同じように感じます。
代理母や卵子提供などで子供をもうけようとするご夫婦に、「子供の法的地位や社会的影響を考えない身勝手な行為だ」という批判があります。
なるほど、法律家の目から見れば、稚拙な考え方なのでしょう。
しかし、夫婦の絆の結晶である子供をつくりたいという純粋な気持ちを前にすると、私には、そのような議論が場違いに思えるのです。
…二人は愚かなことに、家の最もすばらしい宝物を互いのために台無しにしてしまったのです。
しかしながら、今日の賢者たちへの最後の言葉として、こう言わせていただきましょう。
贈り物をするすべての人の中で、この二人が最も賢明だったのです。
(オー・ヘンリー作 結城浩訳『賢者の贈り物』から)