理事長の中村嘉孝です。
人類学者のレヴィ・ストロースは、未開の地の人々が手元のありあわせの材料で、状況に応じて工夫しながら物を作ったりすることを、「ブリコラージュ(器用仕事)」と呼びました。
これは、理論的な設計によるエンジニアリングの思考法とは違い、「野生の思考」だと、レヴィ・ストロースは言います。
「野生の思考」といっても、別に野蛮ということではなく、例えば、ヨット乗りが外洋でのトラブルに一人で対処する工夫も、「ブリコラージュ」の一つで、人工的な「栽培された思考」と違う、より自然で普遍的な人間の思考のあり方という意味でしょう。
もちろん、現在の我々には、「野生の思考」と人工的な「栽培された思考」が共存しています。
一昨日の電話交換機のトラブルで、このことを思い出しました。
メーカーからは、まず、「停電はありませんか」と聞かれ、次に「まず電話回線に異常がないか確認して下さい」という指示がありました。
電気製品の故障対応のマニュアルに、「1.コンセントは入っていますか? 2.スイッチはオンになっていますか?…」などと分かりきったことが羅列してあるのと同じですね。
一方、とりあえずの対処として、「携帯電話に転送しましょう」という電話会社からの提案は「野生の思考」だと思いました。
このようにして、マニュアルによる対応の中に、うまく「野生の思考」を活かすことができれば良いのですが、ヒューマンエラーや責任問題などを考えると、実際にはなかなか難しいのでしょう。
さて、振り返って医療の分野でも、マニュアル化の重要性はいうまでもありませんが、そこに「野生の思考」をどのようにして活かすことができるのか、人が対象であるだけに、余計に難しい問題です。