理事長の中村嘉孝です。
先日、新発売のピルの説明会が院内でありました。
もちろん、いまさらピルについて聞くことはないのですが、あえて説明会を行ったのは、今回のピルが画期的だったからです。
ピルというのは、もともと避妊が目的のものですので、保険適用がありませんでした。ところが、このピルは「月経困難症」の治療薬として保険の適用がされることになったのです。
月経困難症というのは、要するに生理痛のことですが、生理痛はご本人の訴えでしか診断できず、患者さんが「生理痛がひどい」と言ってこられたら、たとえそれが避妊を目的にした詐病でも、100%それを信じるしか仕方ありません。
いまでも、保険が適用されるピルはあるにはあるのですが、子宮内膜症による月経困難症に限られていましたから、子宮内膜症の客観的な診断が必要でした。
今後は、「生理痛」というだけで、いま、自費で処方されているのと同じ低用量経口避妊薬がもらえることになります。
一方、このピルの保険での値段は6千円ほどで、しかし、何十年も前から製造方法の分かっているホルモンの組み合わせですから、開発費も製造費も、たかが知れています。実際、自費の低用量ピルなど中身の薬よりパッケージの方が高いくらいですので、6千円というべらぼうな価格です。
保険財政の悪化がいわれる中で、どうして、そのようなことが起きるのでしょうか。
薬価が6千円というと、患者さんの自己負担は一般的には3割で、約2千円となります。
他に診察料や処方料が要るので、だいたい、自己負担額は、低用量ピルの自費の相場料金と同じくらいになります。
ところが、患者さんが払う金額にかわりがなくても、産婦人科医にとっては、実は、自費のほうが収益は大きいのです。保険適用のない薬は、通常の商売と同じように納入価が決まるのですが、保険適用の薬は政策的に納入価格がコントロールされているため、全く差益がありません。
管理のコストなどを考えるとマイナスの場合もありますし、また、院外処方するように保険点数のインセンティブがあるので、たいていは院外処方になっています。
ですので、6千円という値段の超過利益は製薬メーカーが得ることになるのですが、一方で、自費で避妊薬の処方を受けていた人が「安く保険で手に入るなら」、ということにもならなくなります。
まあ、産婦人科医、院外薬局、製薬会社、それぞれの思惑があって、政治的配慮でついた価格なのでしょう。
釈然とはしませんが、保険制度のモラルハザードを考える好例だとは、思いました。