こんにちは。検査部の鈴木です。
1月24日に開催いたしましたOak Journal and Case Reviewより、私がOak Journal Reviewで紹介した論文の内容を短くまとめた動画を公開いたしました。
Podocalyxinというタンパク質は、「着床の窓」を作りだしている可能性が考えられています。そこで今回は、Podocalyxinの量と着床率(注1)について検討した次の論文を紹介しました。
Podocalyxin inhibits human embryo implantation in vitro and luminal podocalyxin in putative receptive endometrium is associated with implantation failure in fertility treatment.
Heng S, Samarajeewa N, Aberkane A, Essahib W, Van de Velde H, Scelwyn M, et al.
Fertil Steril 2021;116(5):1391–401.
子宮内膜は、特定の時期にのみ胚を受け入れ妊娠が成立すると考えられています。これを「着床の窓」と呼びます。この時期を外すと、グレードの良い胚を子宮に戻しても妊娠が難しくなります。
この「着床の窓」は、大体排卵後5日目くらい、ちょうど胚盤胞を移植する日に相当します。
しかし中には、この時期が少しずれている方がおります。そうすると、通常の移植プランでは一番良い時期からずれて胚を戻すことになり、なかなか妊娠が成立しません。そのような場合は、ERA検査(注2)を行い、移植の時期を補正することが可能です。
ERA検査では、たくさんの遺伝子の発現(どのくらい作られているか)を調べますが、実際に子宮内膜が胚を受け入れるかを決める分子が何であるかは、まだよくわかっていません。
子宮内膜上皮を含め多くの上皮細胞にはPodocalyxinという細胞間の結合に働くタンパク質が存在します。これまでの培養細胞を用いた研究で、子宮内膜上皮のPodocalyxinが移植時期になると減少し、栄養外胚葉(注3)が子宮上細胞の層を抜けられるようになることが示されていました。しかし、Podocalyxinの存在が実際に着床に影響しているかは不明でした。
そこで、今回紹介した論文では、ERA検査と同じく移植時期にPodocalyxinの量を調べ、Podocalyxinの量と妊娠率に相関関係があることを明らかにしました。詳しい内容は、こちらの動画でご確認ください。
参照
1. 着床率は直接測定できないため、今回紹介した論文では妊娠率を代替指標としています。
2. ERA検査は、子宮内膜からmRNAを分離し、遺伝子の発現パターンから子宮内膜がどの時期にあるかを推定する検査です。この検査を行い、移植の時期を個々人に適し合わせて補正を行います。詳しくは、当院のIVFヘルプデスクにお問い合わせください。
3. 栄養外胚葉(TE)は、将来胎盤になります。胚盤胞の時期になると、それまで均一であった細胞が分化し、将来胎盤になる栄養外胚葉と将来お子様の体になる内部細胞塊(ICM)に分かれます。