凍結精子の部分融解法(partial thawing)

凍結精子の部分融解法(partial thawing)

培養士の奥平です。
今回は凍結精子の融解法の一つである部分融解法について紹介します。

精子を凍結する際は、精子を凍結保護剤と混ぜた後凍結チューブに入れ、液体窒素中で凍結保存します。
そして、使用する際は液体窒素から凍結チューブを取り出し、チューブ全体を加温して精子を融解します。その後、遠心洗浄により凍結保護剤を除去し、人工授精や体外受精に用います。
通常、1回の治療で1本ずつ凍結チューブを消費していくことになります。
けれども、1回で妊娠するとは限りませんし、複数の子供を望む場合は治療周期分の凍結チューブが必要となります。よって、複数回にわたって精子凍結をして頂くことになることが多いです。
これについては、精液の提出が容易な方であれば、必要なタイミングで精子を凍結して頂ければいいので問題にはならないと思います。
しかしながら、パートナーの方が遠方に住んでいる、多忙で予定が合わない、病気などの理由で新たに採精不可能というような場合ですと、新規の凍結は困難となります。
このような患者様の中には、融解後に治療に使用した残りの精子の再凍結をご希望される方もいらっしゃいます。この場合、凍結と融解を繰り返すことによるダメージの影響があり、融解使用する度に精子の状態は悪くなっていきます(生存精子数の低下や運動率の低下)。ゆえに、再凍結の回数にも限りがでてきます。

そこで、その問題の解決策になり得る方法が「凍結精子の部分融解法」です。
この技術は一般的には広く知られておらず、我々が調べた限りでは海外での論文1本と学会発表数回しか見つかりませんでした。日本では聞いたことはありませんし、我々も調べるまで知りませんでした。実を言うと、海外で治療されていた患者様からの依頼が始めたきっかけだったのです。
その方法としては、凍結チューブ全体を加温して使用するのではなく、部分融解法の名の通り、治療に使用したい分だけチューブから取り出し融解します。イメージとしては、カチカチに凍ったアイスをスプーンで上から削り取っていくような感じです。使用する部分以外は凍結状態を維持でき、融解・再凍結のダメージを抑えられるメリットがあります。また、任意の回数分の使用が可能となります。例えば、1本の凍結精子を5回に分けて使用したいという希望があれば、約5分の1ずつ削り取っていけばいいのです。
しかし、一部分しか融解しないため、当然ながら1本全体を融解した場合に比べて、得られる精子濃度や運動精子数は減ってしまいます。そのため、受精方法は顕微授精に限られてしまいます。ただし、顕微授精では、極論を言えば授精させる卵子の数だけ良好な精子が回収できればいいので、問題にはなりません。
実際に当院の部分融解法の実施症例でも、問題なく顕微授精でき移植胚が獲得できております。また、参考にした論文では、部分融解と全体融解を比較しても、受精率や臨床妊娠率に差はない結果が得られており、部分融解法の有益性が示されています。
以上から、何らかの理由により凍結精子の使用に制限がある方は、この部分融解法を検討されてはいかがでしょうか。

なお、8月22-23日に開催された第42回日本受精着床学会学術講演会において、本技術を用いた治療について当院の培養士が口頭発表いたしました。少しでも多くの方々にこのような技術があることを知って頂ければ幸いです。

また、今回の凍結精子の部分融解法に限らず、当院が取り扱ったことがない技術であっても、ご希望があれば提供することも可能かもしれません。まず実現可能かどうかを文献などで調べ院内にて検討させて頂きます。我々は個々の患者様に合った治療を提供することを目標としておりますので、まずはご相談ください。

■参考文献
Comparison of effects of thawing entire donor sperm vial vs. partial thawing (shaving) on sperm quality.
J Assist Reprod Genet. 2018 Apr;35(4):645-648. doi: 10.1007/s10815-018-1115-7.

■第42回日本受精着床学会総会・学術講演会
HP:http://jsfi42.umin.jp/