培養士の奥平です。
10月5、6日に東京で開催された「第27回日本IVF学会学術集会」に参加してきました。
1日目には「難治症例へのラボからの挑戦」というテーマで、培養士のセッションがありました。5施設から発表があり、抗セントロメア抗体陽性症例、高齢症例、胚発育不良症例などの治療が難渋するケースの成績をどう改善するかについて、これまでの知見を交え有効となり得ると考えられるラボ側からのアプローチについての提示がありました。当院からは培養士の髙野が登壇し、培養技術の中でも当院が特に力を入れているレスキューIVMに関して、未成熟卵の活用の意義やその技術の有効性を紹介しました。通常は廃棄される運命にある未成熟卵をいかにレスキューし、1個の卵も無駄にすることなく出来るだけARTに用いたいというのは培養士の共通の想いだと思います。
2日目には多血小板血漿(PRP)を用いた不妊治療のシンポジウムが開かれ、午前の部は子宮への投与、午後の部は卵巣への投与に関しての発表がありました。日本でPRPがARTの臨床に用いられて5年半ぐらい経ちます。今では提供している不妊治療施設は多くありますが、当院では開始初期から提供しており、当時関西の不妊治療施設では初めて厚生局の認可を得ております。1日にわたってPRPのARTへの応用をテーマにした発表が行われた学会はこれまでには無かったはずですので、色々な知見が得られ大変勉強になりました。
PRPの子宮内投与については、主に子宮内膜が厚く発育しない方に対して実施されます。これは、PRPに含まれる因子の中には細胞増殖を促す働きを持つものがあり、子宮内膜の肥厚効果が期待されるためです。今回の発表の中には、PRP添加後の子宮内膜細胞の遺伝子発現を調べた報告があり、どうやら細胞増殖以外に、組織再生、炎症反応、抗菌作用(感染制御)に関与する遺伝子の発現を増加させるそうです。つまり、子宮内膜の肥厚効果だけではなく、子宮内の環境を整え胚が着床しやすい状態を作り出す効果も期待できます。実はこの点については当院の実施症例でも思い当たるものがあり、PRP投与後に子宮内膜の肥厚が見られないにもかかわらず妊娠が成立した方もいらっしゃいました。やはり子宮内膜が厚いほど妊娠率が高いのは事実ですが、PRP投与後の子宮内膜が薄い(厚さ7 mm未満)場合でも胚移植を実施し、妊娠に成功した例は他の施設からも今回報告されていました。これらから、PRP投与後に子宮内膜が思うように厚くならなかった場合でも、医師とよく相談した上で胚移植に進むという選択肢は十分に価値があることだと考えられます。
ちなみに、PRP治療については、当院では現状子宮内投与のみ提供しております。ご興味のある方はいつでもお問い合わせください。
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