オーク会検査部です。
日本卵子学会の学会誌 Journal of Mammalian Ova Researchに、「PGT-Aの是非」という特集が載っていました。
PGT-A とは、preimplantation genetic testing for aneuploidy の略で、直訳すると「異数性の着床前遺伝子検査」、胚の染色体数の異常を調べる検査です。以前は着床前スクリーニング(PGS)と呼ばれていた検査で、染色体数が正常な胚(=妊娠の可能性が高い)を選んで移植するために行ないます。
日本では、日本産科婦人科学会の主導のもと臨床研究が進行中ですが、特集のタイトルからも分かるとおり、PGT-Aの実施には賛否両論があります。
PGT-Aを実施するメリット
- 妊娠率が向上し、流産率が低下する→生児獲得率が向上する。
- 治療回数の削減に貢献する。
欧米ではPGT-Aの大規模な研究が進んでおり、染色体異常を認めない胚を移植した場合の移植あたりの妊娠率は70~80%と言われています。凍結胚を用いた移植での妊娠率は34.7%(日本産科婦人科学会 データブック2018年)なので、大幅な改善です。
また、1回の移植で妊娠出産に至る確率が高いので、結果として治療回数が少なくて済みます。
「PGT-Aの有無で妊娠率や出生率に有意差がない」という説もあり、日本産科婦人科学会の臨床研究でも有意差はなかったと報告されていますが、臨床研究に参加した中には生児獲得率が高くなったという施設もあるようなので、研究が進めばこの結果は変わってくるのではないかと思います。
PGT-Aを実施するデメリット
「PGT-Aを実施することによって移植の機会が失われる懸念」が挙げられ、その要因は2つあります。
- 胚生検に関すること
PGT-Aは、殆どの場合は胚盤胞から採取したTE細胞(将来胎盤になる細胞)を用いますが、TE細胞を採取することによって胚盤胞がダメージを受けて、壊れてしまったり、発育停止してしまう可能性は否定できません。そうすると、移植に使えたはずの胚をロスしてしまうことになりかねません。
…もっとも、「TE細胞を一部除去すると胚盤胞の拡張が良くなるというデータ(※)」があるので、無茶な採り方をしなければ大丈夫なのですが。
※当院の研究。胚盤胞の拡張が良くなると着床率も良くなることが期待できます。
- モザイク胚の扱いと診断の限界
モザイク胚とは、1個の胚に正常な細胞と染色体異常の細胞が混在しているものです。
PGT-Aでは、胚盤胞の一部分を採って染色体を増幅して解析するという検査の性質上、実際はモザイクであるにも関わらず、染色体異常、あるいは異常なしと判定される可能性があります(胚盤胞丸ごと1個を検査しない限り、この可能性をゼロにすることはできません)。
モザイク胚の中には正常に出生するものが一定数あるということは分かっており、世界的には移植する事例が増えているようですが、どんなモザイク胚なら移植可能なのかについては結論が出ていません。従って、出生に至る能力のある胚が、モザイクと判定されたせいで移植の候補から外されてしまうことを懸念する意見もあります。
PGT-Aの導入には学会等でも当面議論が続きそうです。
臨床に取り入れられるのはまだ先になりそうですが、今後の動向を注視していきます。