医師の田口早桐です。
Ultralong administration of gonadotropin-releasing hormone agonists before in vitro fertilization improves fertilization rate but not clinical
pregnancy rate in women with mild endometriosis: a prospective, randomized, controlled trial
Fertility Sterility 2020年 4月号より
子宮内膜症はART成功率を下げる要因の一つですが、どのような機序で下げるのかはまだまだ不明です。
子宮内膜症により、子宮卵巣周辺に癒着がおこっていること、子宮の筋肉内に内膜症が起こって子宮筋層が分厚くなる、子宮腺筋症による着床不全、子宮内膜症部位での炎症により、さまざまな種類のサイトカインという(この場合は、有害な)物質が産生され、それが胚の質や着床に作用しているということも考えられます。
子宮内膜症の状態を抑えるのには、ホルモン分泌を抑えて月経をなくすことが一番です。
GnRHaという、自身のホルモンを抑えてしまう薬を治療薬に使うこともあります。この論文では、内膜症の人にUltralong法といって、ホルモンを数か月(ここでは3か月)抑えたあとに採卵移植した場合と、普通に刺激をして採卵移植した場合とを比べて、卵胞内のサイトカインの量、取れた卵子の受精率や妊娠率、受精卵の質を、比べています。
結論としては、卵胞液内のサイトカインの減少は認めたものの、受精率や妊娠率、胚の質には有意差がなかったとのことです。
我々も内膜症が原因と思われる不成功例に対してGnRHaを数か月使用して採卵や移植をすることがよくあります。が、それは、内膜症病変を縮小して内膜症による採卵時のトラブルを防ぐためや、少しでも採卵数を多くするためや、子宮腺筋症や内膜症病変による着床障害を防ぐためであり、それらに関しては一定の効果を感じています。
胚の質の向上に関して、今回の論文ではあまり期待できないとの結論でしたが、論文によりプロトコールの違いもありますし、まだまだ結論は出ていません。当院での使用目的は、胚の質の向上ではないものの、卵胞内の有害サイトカイン減少にはつながっているのですから、今後さらにいろんな観点から注意して観察していこうと思います。