医師の田口早桐です。
Does an FSH surge at the time of hCG trigger improve IVF/ICSI outcomes? A randomized, double-blinded, placebo-controlled study
Human Reproduction 5月8日掲載の論文です。
採卵35~6時間前に、卵胞を成熟させる目的でHCG注射を打ちます。
自然周期の場合は、排卵が起こる前に、LHサージという現象が起こります。このときにLHが急激に増えることによって、排卵が誘発されるのです。
HCGはLHと化学構造が似ているので、注射することによってLHサージと同じ状態を作り出して、卵胞を成熟させるのです。
実は自然に排卵するとき、LHサージが起こっているとき、程度はわずかではありますが、FSHサージ(FSHが急激に増える)も起こっているといいます。しかしそれが、どのように作用するのかは不明です。
今回の論文ではHCGトリガーの際に、FSHを一緒に投与して、妊娠率や採卵数などに影響がでるかどうかを調べています。
HCG投与時にFSHを注射したグループとHCGのみ投与したグループ(それぞれ360人程度、新鮮胚移植をしたのが350人程度です)、この2つのグループで比較したところ、採卵数や受精率、妊娠率、生産率に差はなかったという結果になりました。FSHサージの効果は否定されたことになります。
当院では、トリガーを使うとき、HCGのみの場合と、ダブルトリガー(dual triggerともいいます)といって、HCG注射にGnRHa点鼻薬を併用する場合があります。
通常はHCGの注射で十分なのですが、発育卵胞数に比べて採卵数が極端に少なかった場合や、空卵胞(卵子が回収できなかった)例、未熟卵子の割合が多かった例、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の増悪を防ぐためにHCG投与量を極端に制限しなければならない場合などはダブルトリガーにします。
GnRH点鼻薬は脳内の視床下部に作用して、一時的にLHの分泌を増加させ、自然の周期で起こるのと同じようにLHサージを起こします。ですので、単独でも卵胞を成熟させる効果があります。このときに、FSHサージも起こります。
この論文での排卵誘発法は、いわゆるLong法ですので、前周期の黄体期からずっとGnRH点鼻薬を使って自分のホルモンを抑えています。そのため、GnRH点鼻薬を使うダブルトリガーによってFSHサージを促すことはできないから、わざわざFSHを注射しています。それ以外のプロトコールだと、GnRHa点鼻薬を使えばいいということになります。
卵巣の反応不良例や、未熟卵が多い例などで、HCGにGnRHa点鼻薬を併用することによって卵子の回収率がよくなったという報告もあります。それがFSHサージが起こったことによるものなのか、別の要因によるものなのかは不明ですが、この論文からは、別の要因による改善が考えられると思います。
前述のように当院では積極的にダブルトリガーを取り入れていますが、ショート法やロング法などGnRHa点鼻薬で排卵を抑制する場合には、ダブルトリガーができないので、HCG注射の量を増やすことなどで工夫しています。効果的なトリガーは人によって違うこともあるでしょうが、事前に評価することができないので、難しいですね。