医師の田口早桐です。
Total follicle stimulating hormone dose is negatively correlated with live births in a donor/recipient model with fresh transfer: an analysis of 8,627 cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology Registry
Fertility Sterility 誌でのin press (オンライン版)論文から
刺激周期で、卵巣刺激のための注射の量(ここではとくにFSHの量に注目しています。)が多いと、卵子の質に影響するかどうかについての論文です。
SART(アメリカでのART登録)データベースからの後方視的調査です。
卵子ドナーからの採卵、受精を経て、レシピエント(依頼者)に移植をする、というプロトコールで、卵子ドナー8627人に対する調査となっています。
卵子ドナーの平均年齢は25歳、平均FSH投与日数は16日、平均総FSH投与量は2350IU、一日あたりFSH投与量平均153.8IU。
その結果、平均採卵数21個、平均受精数10個、移植以外に凍結できた数(平均3個。38%で凍結まで可能、凍結は83%が胚盤胞での凍結でした。
結果として、妊娠率66%、生産率66%、流産率13%でした。ドナー卵子なので、やはりこのくらいだと思います。
周期全体での総FSH量、投与に要した期間(日数)、1日あたりの投与量、この3つのパラメーターが、妊娠率、生産率、流産率に影響するかどうかを計算しています。
結論としては、総FSH量が多いと、妊娠率と生産率が下がる、という結果が出ました。FSH総量が500IU増えると、オッズ比で妊娠率も生産率も3%減少。ただし流産率には影響しませんでした。ほかの2つのパラメーター、投与日数と1日当たりの量は、いずれにも影響を及ぼしませんでした。
著者は考察のなかで、推察される理由について、あまりはっきり述べておらず、「多分染色体や遺伝子などに対する影響というよりはエピジェネティック(遺伝子周辺の環境)なものや、未知の変化がかかわっているのではないか」と書いています。
これまで、FSH総量が多くなると妊娠率が下がる、という論文はいくつか出ていて、その中でピークのE2値が高いと卵子の質に影響する、ということが述べられているものもあります。受精卵の染色体異常率が増える、という報告もありますが、その一方で増えないという報告もあります。
何が影響するのか、またそもそもFSH投与総量が卵子の質に影響するのかどうか、まだまだ結論は出ていないと思われます。が、FSH投与総量が多くなってしまうということは、卵巣の機能面でいうと、反応が鈍い、つまり、働きが悪いと言えます。その広い意味での卵巣機能の悪さが、卵子の質に影響している可能性は否定できないと思います。曖昧ですが、そんなところです。