医師の田口早桐です。
Assisted reproductive technology treatment and risk of ovarian cancer
-a nation wide population-based cohort studyから
ARTの際に排卵誘発によって卵巣がんになりやすくなるのではないかと心配される方も多く、ときどき質問を受けます。もちろん、注射などで不要な刺激はしたくないのですが、妊娠率を確保するためにはある程度しかたのないことではあります。
ここでご紹介する論文は、昨年Human Reproduction誌で発表された論文です。
1994年から2015年までのデンマークでのデータの集計で、体外受精を受けた女性と受けていない女性を平均9~10年程度追跡調査した結果です。
どちらのグループも6万人前後が対象ですので、大掛かりな調査ですね。
結論としては、体外受精を受けた女性のほうが、リスクは上がる。…これだけ聞くと怖くなるかも知れませんが、よく見てみると、それほど心配はないようです。
まず、体外受精を受けると1.2倍、卵巣がんにかかるリスクが増える。
しかし、体外受精を受けることになった原因が、男性因子やPCO(多嚢胞性卵巣) 、もしくは原因不明の場合など、子宮内膜症以外の原因の場合は、まったくリスクは増えません。
子宮内膜症の場合のみ増えるようで、3.78倍、3~4倍に増えるようです。卵巣がんにかかるリスク自体が0.06%と低いものであったとしても、やや注意が必要でしょう。
ただし、単純に「子宮内膜症だと体外受精をすると卵巣がんになりやすくなる」と、短絡的には言えません。もともと卵巣にできる子宮内膜症の中に癌化するケースがあること、不妊治療をしているために頻繁に超音波検査をするからこそ、見つけた可能性があること(超音波を頻繁にしていなければスルーしていたかも。それも怖いですが)。
そして何よりも、ARTによる卵巣がんのリスクは、ART治療を開始して2年目がピークで、あとは減少していくという結果でした。
卵巣がんの最大の怖さは、発見が遅れる、ということです。
体外受精治療や不妊治療をしている間は頻繁に超音波検査をしますし、サイズの増大があるなど、変化があると、すぐに造影MRIを撮るなど精密検査を行いますし、卵巣がん自体の罹患率がそもそも高くないですから、過度に心配する必要はないかと思います。
著者も、データから、排卵誘発そのものが内膜症のがん化リスクを高めるわけではないと考えています。
逆に、内膜症の場合は、そもそもリスクがあるので、超音波検査を頻繁に受けるよい機会になると捉えてもいいかもしれません。