医師の田口早桐です。
Examining the temperature of embryo culture in in vitro fertilization:
a randomized controlled trial comparing traditional core temperature (37℃) to a more physiologic, cooler temperature (36℃)
Fertility and Sterility Vol.102, No.3, September 2014
面白い論文です。
要旨は極めて単純で、受精卵を培養する温度を、通常の37℃から1℃低い36℃でやってみたら、どうだったか?ということです。卵巣付近の温度は36℃くらいで通常の体内の体温より少なくとも1℃は低いとされています。なので、低い温度で培養するほうがより生理的なのではないかと推察され得ます。
面白いのは、それぞれ温度のグループからの受精卵をペアで移植していることです。
同一女性の卵子を受精させて37℃と36℃に分けて培養して、それぞれ1個ずつ計2個を移植します。
全ての受精卵は、5日目の胚盤胞からTE biopsyによって細胞を採取し、着床前スクリーニングを行い、染色体正常卵のみを移植するのですが、着床して出産した児がどちらの温度で培養した受精卵から来たのかも、児の口腔内の細胞を取ってDNA検査をして追跡するのです。
結果、培養3日目の段階での細胞数、胚盤胞到達率、移植可能胚の割合は、全て37℃のほうが優っていました。ただ、受精率や染色体正常卵の率に差はなく、ペアで移植した例36例中20例が双胎を出産、12例が単胎出産、4例が流産したとのことでした。単胎の12例中、4例は36℃の培養から、8人は37℃の培養からの児だったとのことです。着床から妊娠継続に有意差はありませんでした。
細胞の培養をする際に、温度はとても重要です。
1℃違うと細胞にとっての環境が大きく変わる可能性がありますので、我々は温度管理に非常に敏感になっています。今回の論文にからは、今までどおりでよいという結論になりますが、今後も注意を払っていきたいと思います。