卵巣組織の凍結

卵巣組織の凍結

医師の田口早桐です。

卵子凍結が随分行われるようになってきました。私ももう少し(?)遅く生まれていれば、恩恵に与かることが出来たのに、と思います。

というのも、40代に入ってから、もう一人子供を、と思って排卵誘発してみたものの、卵巣がほとんど反応せず、そうこうするうち家族の介護が重なってあえなくギブアップしたのです。

さて、今回ご紹介する論文は、そこからさらに一歩進んだ「卵巣組織の凍結」の話です。
Human Reproduction1月号より“Basic fibroblast growth factor promotes the development of human ovarian early follicles during growth in vitro”。

卵子凍結が良いとは言っても、例えば卵巣がんで早急に摘出する場合や小児の場合など、卵子を採取するのが不可能な場合があります。化学療法を行うとかなりの率で二度と卵巣が働かなくなりますので、妊孕性を少しでも期待するのであれば、なんらかの形で体外に保存するしかないのです。
卵子の形で凍結するには、体外受精の採卵のプロセスと全く同様に、連日注射をしたりして、卵胞を発育させて、受精できる状態になった卵子を採ります。

それが出来ない場合は、卵巣組織自体を凍結するしかありません。
たとえば卵巣癌であれば卵巣を摘出した際に一部を凍結して化学療法後に移植しよう、ということになりますが、多くの問題があります。
一つは卵巣組織内に癌細胞が残っていて、再発する可能性。もう一つは、移植した卵巣が機能し始めたとしても、数ヶ月で駄目になるケースが多いということ。
ですから、凍結した卵巣組織から直接卵子を得ることができれば一番良いわけです。

論文では単に、培養系にBasic fibroblast growth factor を加えると、卵巣組織の卵胞の発育が良かった、というものでした。一番効果的だった濃度についても検討されています。
体外でいかに効率的に卵巣組織を元気にさせるかというのは大きな課題で、どのような物質を添加すれば良いのか、いろいろな方法が試されています。
今はまだまだ試行錯誤の段階で、今後さらに様々な方法が試されると思います。
その分面白い分野といえます。また、その研究結果が、早発閉経や卵巣機能不全などの治療にも生かされることを期待します。