排卵誘発神話…その4

排卵誘発神話…その4

医師の田口早桐です。

これまで、排卵誘発に関していろいろ述べてきました。
ただ、卵巣の予備能がある程度保たれており、HMGに反応するのであれば、刺激の程度を多少強めたり弱めたりしても、その強さに応じて卵子が採取できます。

我々が一番頭を悩ませるのは、

  1. 卵巣予備能が低く、刺激に反応しない場合
  2. PCO(polycystic ovary:多嚢胞性卵巣)の場合

の排卵誘発です。これらについて述べていきます。

1の場合。毎月きちんと月経があっても、卵巣内に卵子の在庫が減っている場合は、FSHやHMGなどの排卵誘発注射をいくら打っても効きません。発育する卵胞の数は増えないのです。
患者さんにとっては、毎月きちんと月経があるのに、納得いかない場合も多いようなのですが、この状態をたとえて言うなら、年を取って歩くスピードは変わらないけど、いざ「走れ!」と言われて、若い頃と違って走れなくなる、という感じでしょうか?
このような場合、刺激周期は有効でなく、完全自然周期か、内服のみの低刺激で採卵することになります。

排卵誘発法を決める際に卵巣予備能を評価するのですが、これがなかなかやっかいです。今話題のAMHは一応の目安にはなりますが、低くても刺激によく反応する場合もあります。
月経3日目のFSHや胞状卵胞数を数えて判断する、というやりかたもありますが、毎周期その結果でキャンセルが続くだけ、ということにもなります。そのままでは前に進みません。

このような場合、当院では、レトロゾール(フェマーラ)を用いて排卵誘発を行います。もともとは閉経後の乳がん薬で、抗エストロゲン作用を持ちます。
乳がんの患者さんでこの薬を服用していて卵胞が発育するケースがあり、不妊治療に用いられるようになりました。抗がん剤、というと怖いイメージがあるかもしれませんが、目立った副作用はありません。

また、エストロゲンリバウンド法を用いることもあります。
少量のエストロゲンを月経3から5日目より開始して卵巣の反応を見るもので、エストロゲンを与えることにより、下垂体からのFSHがいったん下降することで卵巣の反応を回復させようというものです。これも一定の成果を上げています。

他にも、アンドロゲンを用いる方法等があります。
DHEA(Dehydroepiandrosterone)も、初期段階に作用して、卵胞発育を助けます。服用しておいたほうが良いサプリメントです。大事なことは、「もう予備能がないから無理。」とか「FSHが高いから今周期は無理でしょう。」とあまりさっさと判断してしまわずに、いろいろ試してみることが大切です。