医師の田口早桐です。
体外受精で、卵子と精子を受精させる方法には、2つあります。
ひとつは、conventional、コンベとかふりかけ、とか言う方法で、conventionalとは「従来からの」という意味です。精子浮遊液を作って、その中に卵子を入れ、培養器に入れておき、後で(翌日の朝)卵子の周辺の細胞を取り除いて、受精が行われたかどうかを確認します。
受精が正常に行われた印として、卵子の中に前核といわれるものが2つ確認できます。片方は男性(精子)からで、もう片方は卵子から。
これに対して、ICSI(顕微受精)のほうは、卵子周辺の細胞をはじめから取り除き、1匹の精子を1個の卵子に注入する方法です。確実に精子を卵子の中に入れますが、受精がきちんと「完了」するかは、翌日に2つの前核を観察する必要があります。
ICSIの適応は、
①精子が少なく、精子浮遊液をつくるだけの精子の確保が難しいとき(結構な数必要です。)
②一度conventionalで行って、受精率が悪かった場合(受精障害)
となります。
初回の体外受精の場合、そのカップル間の受精率は初めから予想できません。
たとえ、妊娠歴があったとしても、受精率が悪いことがあります。
conventionalを選択して翌日受精していなかった場合は、そこで終了。また採卵からやり直すことになります。(その時点でICSIする方法もありますが、成績がとても悪いので、当院ではほとんど行っていません。)
だから、初回の採卵で、conventionalかICSIかを選択するのは結構ストレスです。採卵数が多い場合は、半分ICSIしておく、という保険をかけることもあります。が、採卵数が少ない場合(やはり年齢が高い方が多い)はICSIをはじめから選択する場合が多いですね。
2020年2月号のFertility&Sterilirtyでこれまでの発表された論文のなかのデータを分析して、精液所見正常で、女性が38歳以上、という条件で、ICSIしたほうが受精率がよいのかどうかを検討する論文が発表されました。
Conparing fertilization rates from intracytoplasmic sperm injection to conventional in vitro fertilization among women of advanced age with non-male factor infertility:meta-analysisです。
詳細は省き、結論としては、あまり差がない、ということでした。ただし、これは「全体としての数字を見ると」、ということなので、年齢が高くて、卵子が貴重な場合、また、受精障害があるかどうかが不明な状態では、「安全を取って」ICSIを選択することが多くなると思います。