体外受精と顕微授精

体外受精と顕微授精

医師の田口早桐です。

初めて体外受精を受ける患者様に対して、体外受精の概要や、スケジュールなどを説明します。
その際、様々な技術を適用するかどうかについて、ご本人とお話をして決めています。
いくら医学的に必要、もしくは望ましいと思われても、ご本人が希望しない場合がありますし、なぜ望ましいのかを充分に説明する必要があります。
しかし、なんでもそうですが「やってみないことにはわからないこと」がありすぎて、判断に迷うことも多いです。

「顕微授精にするかどうか」というのも、そのひとつ。精子の所見が極端に悪い場合、どうしても受精させるだけの精子の濃度が確保できないときは、ご存知の通り、培養士が正常と推定される状態のよい精子を一匹選び、卵子の細胞質の中に注入する、顕微授精を行います。
顕微授精の場合の「じゅせい」の「じゅ」は「受」でなく「授」。手偏(へん)がついています。
要するに、こちらで行う手技であるということ。一度目の体外受精で受精率が悪く、受精障害であると診断された場合も同様に次回は顕微授精をします。

しかしそれ以外にも、本当に適応であるかどうかは分からないけども、顕微授精を行うことがあります。
例えば、40歳を過ぎて初めて体外受精に臨む場合などであまり採卵数が期待できない場合、受精障害だと採卵して媒精(精子と卵子を合わせてやると精子が自力で受精する)し、翌日の受精確認で受精していないことが分かったとしても、その時点から顕微授精をしたのでは遅いので、またもや採卵からやり直し、ということになります。貴重な時間を失うことになりかねません。

また、受精障害であった場合の保険として、例えば10個の卵子が取れたら5個を顕微授精しておいてください、と言う方もいます。知り合いの受精障害の話を聞いて、どうしても一部保険をかけておきたい、などの理由が多いです。
一回一回保険も効かずかなりのお金を要し、また少しでも若いほうが妊娠率がいいのですから、きちんと結果につながるようにしたい。尤もなことだと思います。

充分納得の上、顕微授精を希望され、妊娠出産したカップルですが、ご主人が「本当に自分の精子が受精するのかどうかを確かめるべきだった。」と後でとても悔やんでいたこともあれば、最初は普通の体外受精を希望されて受精障害で移植できず、再度採卵からやり直しとなり、「こんなことならはじめから顕微授精をしておけばよかった。もっと強く勧めて欲しかった。」とおっしゃった方もいます。

いずれにせよ、まさに後悔先に立たず、ですが、我々はプロとして、選択肢を示して受けられる方に選んでいただくのみでなく、知識と経験に基づいたアドバイスを責任を持って示していきたい、と思います。