医師の田口早桐です。
ほんの数年前からではありますが、単一胚移植(single embryo transfer: SET移植胚とひとつだけにすること)が主流となりました。
その背景として、胚盤胞培養技術が安定したため、より着床効率のよい胚を選ぶことができるようになったことと、産婦人科医の不足により周産期医療が破綻しかけていたこと、があります。
できるだけ多胎をなくそう、というわけです。
具体的には、2008年の日本産婦人科学会総会で議決され会告がなされました。
35歳以上もしくは反復着床不成功の例以外は原則として移植胚を1個に制限しようというものです。
直後の日本国内の調査では、新鮮胚移植だと依然2個胚移植のほうが1個胚移植より妊娠率が高いという結果になっていました。しかし、年齢があがると2個移植の効果がないという結果だったと思います。以降、原則1個しか移植しないというクリニックも増えたように思います。
今回ランセット誌に載った論文では、イギリスでの大規模のデータ分析がなされています。
Lancet, 379(9815): 521-527,2012英国のデータベース Human Fertilisation and Embryology Authority (HFEA)に登録された新鮮胚移植124148例についてのデータ解析です。
結果によると、40歳以上では40歳未満の女性に比べて移植胚数とは無関係に生産率が低いものの、2個胚移植や3個胚移植による生産のOR(オッズ比)が、40歳未満では各々2.33、2.34であるのに対し、40歳以上では3.12,3.61と高いということでした。
つまり、40歳以上では1個より2個移植したほうが妊娠しやすいということです。
当院では現在、3個胚移植は原則行いませんが、年齢とそれまでの経過を考慮した上で2個胚移植を、患者さん本人と相談の上で行っています。
もちろん、医学的には多胎はできれば避けたいですが、妊娠率を大幅に犠牲にしては、不妊治療をする意味がありませんし、健康保険が適用されない体外受精において、治療費を全額払っているのは患者さん本人なのです。
なお、付け足しておきますと、ご紹介した論文によると、双子妊娠による、早産および低出生体重のリスクは、40歳以上の女性では40歳未満の女性に比べて高くなかった、ということでした。