以前は、Y染色体はX染色体に比べて小さく、進化の過程で徐々に消滅すると考えられてきました。しかし、前回ご紹介したように、2023年に発表されたNatureの研究によりY染色体が完全に解読され1)、同時期にでた論文で驚くほど多様性に富んでいることが分かり、その重要性が再評価されています。
この新しい発見は、マウスのY染色体の完全な配列解読から始まりました2)。これによって、Y染色体は単純に小さなものではなく、独自の遺伝子増幅が進み、多様化していることがわかったのです。ここでY染色体がただ消滅するだけの運命にあるという従来の説は否定され、むしろ染色体の中でも非常に複雑で多様な機能を持つことが明らかになりました。
その後ヒトY染色体が新しい技術、single moleculeシークエンサーによって解読され、次に43人のY染色体を用いてほぼ完全に解読した論文によって3)、18万年前にホモサピエンスがアフリカに住んでいた時代から続くY染色体の進化の軌跡が明らかにされました。この研究では、21種類のY染色体ハプログループを代表する43人のDNAを比較し、その遺伝的多様性を追跡しています 。
Y染色体は機能的遺伝子(ユークロマチン)が前半部分に集中しており、後半は繰り返し配列が多く存在するヘテロクロマチン領域が広がっています。前半部分の構造も多様性に富み、とくに逆位と呼ばれる、ゲノムがさかさまになっている構造変異が多いということが分かりました。
後半のヘテロクロマチン領域には機能する遺伝子はないものの、繰り返し配列が存在しています。大まかにいうと、171塩基配列を持つDYZ3と呼ばれる繰り返し配列に、170塩基からなる α繰り返し配列が組み合わさってできており、この長さと組み合わせによって、大きな多様性を作り出します。
では、このようなY染色体の多様性はなんの意味があるのかということですが、Y染色体は当然、男性にのみ存在する染色体で、もしかしたらこのようなY染色体の多様性が、男性の身体的特徴につながっている可能性も考えられるかもしれません。スポーツの世界で目覚ましい活躍をする選手たちを見ると、Y染色体が持つ独自の多様性が、彼らのパフォーマンスに影響を与えているのかもしれないとも思えます。将来的に、その多様性が男性の多様性を支えていくと考えられます。Y染色体は消滅するのではなく、これからも進化し続け、人類の多様性を支える重要な要素であり続けることが期待されます。と、しめくくって、世の男性たちにエールを送りたいと思います。
■参照(注釈)
1)The complete sequence of a human Y chromosome
3)Assembly of 43 human Y chromosomes reveals extensive complexity and variation
ART Baby Business COVID-19 DNA DNA量 Nature誌 PGT-A X染色体 Y染色体 がん カウンセリング デボラ・スパー氏 ハーバード大学 ホルモンバランス 不均衡型構造異常 不妊治療 不妊治療バブル 不育症 体外受精 保険適用 健康問題 健康状態 先天性異常 免疫療法 副作用 医療提供者 医療法人オーク会 反復着床不全 均衡型構造異常 培養士 妊娠率 子宮内膜ポリープ 年齢 染色体 染色体検査 染色体異常 検査 構造異常 治療法 流産 減数分裂過程 発達障害 精子 細径子宮鏡 自費診療 逆位 遺伝子 遺伝子解析 遺伝的多様性 高度生殖医療