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後編 「胚培養士に聞く、体外受精、顕微授精」

胚培養士 天野奈美子
胚培養士 天野奈美子

前回はオーク住吉産婦人科のベテラン胚培養士の天野奈美子氏に、胚培養士に関して話を伺いました。
今回は、患者様があまり目にすることのない胚培養士の仕事内容、特に培養室内での作業に関して話を聞いてみたいと思います。

培養室内での作業

培養スタート

私たち胚培養士の仕事は、ひと言で言うと“胚(受精卵)のお世話”です。ドクターが採取した卵子を受け取った時点から培養の作業は始まります。
卵子は卵胞液という液体に浮かんだ状態で培養室に届くので、それを顕微鏡で観察して卵子を回収し、数時間の前培養を行います。前培養の間に精子の調整を行います。
精子は採卵当日に採取して頂くのが一般的です。凍結精子を用いることもあります。
いずれの場合も、洗浄して精漿や白血球、雑菌などを取り除き、運動精子のみを採取し集めます。

体外受精、顕微授精

体外受精の場合は、卵子に濃度を調整した精子をふりかけ、培養します。
卵子は卵丘細胞という細胞に包まれているので、たくさんの精子が一斉に卵に向かって泳いで行き、精子頭部からヒアロニダーゼという酵素を放出して卵丘細胞を溶かします。
透明帯(卵の殻)を通過して最初に卵子にたどり着いた1個の精子が卵細胞質内に入ると、受精が成立します。
顕微授精の場合は、卵子に針を刺して精子を卵子内に入れるために、卵子を覆っている卵丘細胞を取り除きます。
精子の方は、尾部を顕微授精専用の針で押さえて擦る、不動化という処理を行います。そうすることで、扱い易くなるだけではなく、精子から卵子を活性化させる物質が放出され、受精率が上がるとされています。
不動化した精子を針で吸引し、卵子に針を刺し、卵細胞質内に精子を注入します。

培養器外の環境は、卵子にとってはストレスになるので、精子を選ぶところから卵子に注入するまでの工程を数十秒の単位で行います。

体外受精、顕微授精

卵子や胚の観察・グレーディング

当院では毎日卵子や胚の観察をしています。採卵の翌日は受精確認です。受精した卵子には通常2個の前核が見られます。
前核はしばらくすると消失し、受精卵の細胞分裂が始まります。細胞分裂を始めた受精卵のことを胚(初期胚)と呼びます。
胚は細胞分裂(分割)を繰り返して発育し、5日目頃に胚盤胞になります。
初期胚と胚盤胞でそれぞれ判定基準があり、その基準に従ってグレードを判定します。
初期胚は「Veek分類」という評価法を用います。Veek分類は細胞の数や大きさ、フラグメント(分割の際に生じる細胞の破片)の量で評価します。
細胞数をステージ、細胞の大きさやフラグメントの量をグレードで表すのですが、グレードは細胞の大きさが均等でフラグメントの量が少ないほど良好とされ、最も良いグレードを1として5段階で評価されます。

卵子や胚の観察・グレーディング 卵子や胚の観察・グレーディング

一方、胚盤胞は「ガードナー分類」を用います。発育速度と細胞の量の組み合わせで評価していきます。
ガードナー分類は、例えば「3BB」などと表記しますが、この数字は発育速度を表しており、発育が進んでいるものほど数字が大きくなります。
数字の横のアルファベットは細胞の量の評価で、左のアルファベットが内細胞塊(胎児になる部分)、右が栄養外胚葉(胎盤になる部分)です。
A、B、Cの3段階評価で、細胞が多いものはA、少ないものはCと判定します。

卵子や胚の観察・グレーディング 卵子や胚の観察・グレーディング

胚移植・凍結

通常、胚移植や凍結は採卵後2~3日の初期胚あるいは4~5日目の胚盤胞の時点で状態の良いものを選んで行います。
初期胚より胚盤胞の方が、途中で発育停止する胚を除外できるぶん着床率が高くなるため、5日目まで培養するのが一般的です。
ただ、発育が遅い胚は5日目では胚盤胞になっていない場合もあります。
発育が遅い胚も十分妊娠の可能性がありますので、当院では5日目の胚盤胞移植・凍結の際は、胚盤胞だけではなく、コンパクション(胚盤胞になる直前の胚)なども用いています。胚盤胞のみを移植・凍結したいという場合は、6~7日目まで培養を続けます。
移植や凍結の時期にご希望がございましたら、診察時にドクターにご相談いただければと思います。

厳重な安全対策や管理体制

徹底した管理のもとで

卵子や精子を扱う際、使用する容器や器具には患者様のご氏名、診察券番号を記入して、全ての工程において培養士が複数で確認するだけでなく、バーコードリーダーを導入してダブルチェック、トリプルチェックを徹底しています。
また、取り違え対策以外にも、卵にユニークナンバーをつけて1個ずつ個別管理をする、院内で開発したITシステムで培養の記録を管理するなど、厳重な安全対策や管理体制をとっています。

最後に・・・

不妊治療を行われる上で念頭に置いていただきたいことがあります。採卵時の年齢が若い方が妊娠率は高いということです。
万全の状態でグレードが良い胚を移植しても妊娠に結びつかないことが残念ながらあります。
不着床や流産は胚の染色体異常に起因するものが多いと言われており、年齢と共に染色体異常の確率は上がっていくので、少しでも早く採卵をするのが妊娠への近道だと思います。
体外受精へのステップアップを検討されている方、既に体外受精をされている方、それぞれにお悩み・ご不安などあるかと思います。

当院は毎月体外受精セミナーを開催しています。体外受精に関する具体的なご説明や、体験談を聞いて頂けます。
私たち胚培養士にご質問などがありましたら、IVFヘルプデスクで承りますのでお気軽にご相談ください。