妊娠はするものの、22週以前の流産等で出産に至らないケースを「不育症」といいます。
不育症・反復着床の主な原因と内訳
「不育症」は、複数の病態を含む診断名です。
妊娠は成立するものの、22週以前の流産、死産、早期新生児死亡などを繰り返し、赤ちゃんを得られない状態を「不育症」と定義しています。
これは、これらの事例の約半数は偶発的流産で、特別な治療を行わなくても次回の妊娠時には、高い確率で出産に至ることが分かっていますが、残りの半数に凝固異常や夫婦の染色体異常や、子宮形態異常などの共通のリスク因子が認められることがあるためです。
胎嚢(赤ちゃんの袋)確認後に、何らかの原因で胎児が亡くなってしまい、妊娠が継続しなくなることです。
流産を3回以上繰り返した場合を言います。
死産や早期新生児死亡は含めません。
流産を2回以上繰り返した場合を言います。
最近、反復流産も原因精査の対象と考えられるようになってきました。
(参考)生化学的妊娠
妊娠反応が陽性となった後、超音波で胎嚢が子宮内に確認される前に流産となることをいいます。
日本産科婦人科学会の定義では、流産回数には含めないことになっています。
子宮奇形は子宮腔(子宮の中で胎児を育てるスペース)の変形や着床部への血液の流れが不十分になることから着床や胎児の成長に影響すると考えられます。
甲状腺機能異常は流産だけでなく、その後の妊娠経過や出産後の健康にも影響します。
自己抗体が過剰に作られると、妊娠子宮内に血栓ができやすくなったり、血管新生を妨げて妊娠維持に障害を起こしたりすることが指摘されています。
特に、抗リン脂質抗体によって引き起こされることが指摘されています。
凝固因子に異常があると、胎盤内で血栓がつくられやすくなり流早産の原因になります。
胎児の半分は父親由来のため、母体にとっては半分同種移植片です。
妊娠成立には、何らかの免疫学的防御機構が働いており、このバランスが崩れると胎児を異物として拒絶してしまい、流産となってしまいます。
ご夫婦のいずれかに染色体異常がある場合、一定の確率で引き継がれます。
明らかな原因がないにも関わらず、妊娠に至らないこと(原因不明不妊)や体外受精-胚移植を繰り返し行っても妊娠に至らないこと(反復着床不全)があります。
原因不明不妊や反復着床不全の場合、胚の染色体異常もしくは患者様ご自身に何らかの異常がある可能性があります。
そういった場合は、患者様ご自身に問題がないかを調べていくことが必要です。
子宮内腔の異常、同種免疫異常、妊娠に関係の深いビタミン・ミネラルの異常があります。
子宮内の異常(ポリープ、筋腫、癒着等)や、慢性子宮内膜炎(マイクロポリープ、発赤、浮腫等)の有無を子宮鏡で確認します。
反復着床不全や不育症の原因の一つに、免疫機構の働きの異常があります。
免疫機構が胚や胎芽、胎児を異物としてとらえ、体から排除しようとして(同種免疫異常)、その結果、妊娠や妊娠継続に異常をきたすのです。
同種免疫異常の検査に以下のものがあり、移植胚や胎児を異物として排除しようとする体の反応が出ていないかを確認します。
NK細胞(natural killer cell ナチュラルキラー細胞)は妊娠の維持に必要な免疫寛容に関与します。
しかし、NK細胞活性が亢進すると血管新生の誘導が障害されたり、胎児を異物として排除しようとしたりして流産が引き起こされることが指摘されています。
末梢血NK細胞活性は不妊症や不育症患者において高値であると言われており、特に反復流産の経験がある患者様は流産既往のない患者様よりも有意に高いという報告もあります。
免疫には細胞性免疫と液性免疫があります。細胞性免疫ではTh1、液性免疫ではTh2が中心となって免疫機構を担っています。
近年、免疫学的妊娠維持機構として、Th1/Th2 バランスが注目されています。
妊娠が維持されるのは、Th1が低下し、Th2が亢進するためといわれています。
習慣性流産の免疫学的原因としては、抗リン脂質抗体など自己抗体によるものと、臓器移植の拒絶反応に準じた機序が考えられ、どちらもTh1/Th2バランスの破綻が示唆されています。
Th1に傾けば母体は胎児を異物として認識し、拒絶反応がおき、着床障害や流産となります。
Th2に傾けば、今度は抗体産生が盛んになり、抗リン脂質抗体などの自己抗体が産生され、流産を引き起こすことになります。
着床環境や妊娠に重要な役割を担っている物質(ビタミンD、銅、亜鉛)の数値が妊娠に適正か判断します。
ビタミンDはそもそもカルシウムや骨代謝に不可欠はビタミンとして有名ですが、免疫力や癌、アレルギーとの関わりが指摘されています。
そして、妊娠に関わる側面からも大変重要な役割があり、子宮内膜の環境を整え着床に関係しています。
ビタミンDが高い女性ほど体外受精の妊娠率が高い、ビタミンD不足は初期流産のリスクが上昇する、という報告もあります。
また、血中ビタミンDが高いほどAMHが高い、つまりビタミンD不足が卵巣予備能の低下につながると言われています。
ビタミンDは食事から摂取する他、日光に当たると皮膚のコレステロールから作られます。
近年、日光に当たる機会の減少によりビタミンDが不足し、食事からの摂取だけでは十分な量を維持するのは極めて難しくなっています。
日光に当たることに抵抗感がある方は、サプリメントでの摂取が必要です。(食べ物では、ニシン、鯖、イワシ、マグロ、シラス、鮭、卵、キノコなどに多く含まれます。)
亜鉛は妊娠に重要なミネラルです。
亜鉛は受精卵の細胞分裂を促したり、子宮内の環境を整えたりする働きがあります。銅は反対に着床を阻害する働きがあります。
すなわち、亜鉛欠乏になると、吸収経路が同じ銅がより多く体内に吸収されるようになり、銅過剰による着床障害が起こりやすくなります。
現代人の食生活では、レトルト食品や冷凍食品、スナック菓子などの加工食品、野菜中心の食生活によって肉や魚に多く含まれている亜鉛を摂取できていなかったり、加工食品に多く含まれる添加物に亜鉛の吸収を阻害したりする作用があり、亜鉛不足になっていることが多い状態です。
亜鉛を補給することで銅の吸収は抑えられ、着床や妊娠によい環境づくりができることになります。
亜鉛は牛肉、豚肉、貝類、甲殻類、ピーナッツ、豆類などに多く含まれます。
検査項目 | |
不育症検査1 |
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不育症検査2 |
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不育症検査3 |
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不育症検査4 |
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不育症検査5 |
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※保険適用になる場合がございます。
検査結果により、異常に対応した治療を選択していきます。
自己抗体や凝固系の異常では、低用量アスピリン療法※1やヘパリン療法※2で治療を行います。
→ヘパリン療法についてのお知らせ
原因 | 検査 | 治療 | ||
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子宮形態異常 |
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場合によっては手術適応 | ||
内分泌異常 | 甲状腺機能 | 血液検査 |
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甲状腺専門医を受診 |
自己免疫異常 |
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低用量アスピリン療法(28週まで)※3
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低用量アスピリン療法(28週まで)※3
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低用量アスピリン療法(28週まで) ただし、キニノーゲン陰性の抗体価のみが高い場合は治療の必要なし |
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低用量アスピリン療法(28週まで) | |||
血液凝固異常 |
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低用量アスピリン |
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同種免疫異常 |
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夫婦染色体異常 |
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遺伝カウンセリング | ||
ビタミン・ミネラル異常 |
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サプリメント |
※1) 低用量アスピリン療法
低用量アスピリンを1日1錠服用。
期間:移植時、または高温期の中間から開始し、妊娠28週まで継続して服用。
月経が来た場合は中止。
※2) ヘパリン療法
ヘパリンカルシウム1回5000単位を12時間ごとに自己注射。
期間:胎嚢が確認でき次第注射を開始。
料金の目安:1筒:360円(税込396円) 1日:720円(税込792円) 1週間:5,040円(税込5,544円)
※治療開始から1ヶ月以内は、毎週血液検査(肝機能、血小板)を行います。
〔血液検査料金〕4,050円(税込4,455円)
※ヘパリン療法には、同意書の提出が必要です。
※ヘパリン療法開始時に、自己注射管理料2,000円(税込2,200円)が別途必要となります。
※3) ただし、抗リン脂質抗体症候群の抗体陽性の方は12週後の再検査で陰性であっても、初期流産既往があれば、
アスピリン療法 + ヘパリン療法も考慮する。
例:アスピリン 28週まで
ヘパリン 16週まで
※4) タクロリムスは個別に使用量を調整します。
※その他:流産歴、年齢などを考慮し、個別に相談しながら治療法を決定させていただくこともあります。
※検査項目について:定期的に最新のデータをもとに変更していきます。
※ご注意:総額表示義務に基づき、税込価格を記載しています。会計時に計算上の誤差が生じる場合がございます。
妊娠初期の流産は、胎児の染色体異常が原因であることが多くあります。流産手術の際に子宮内に残っている胎児組織や、自然排出した組織、胎盤の一部である絨毛を調べることによって、胎児の染色体に異常がなかったかを調べることができます。当院で実施している検査は2種類です。
解析に新鮮な組織が必要なので、流産手術後すぐに検体を採取します。
今回が2回目以上の流産となる方、死産と診断された方が適応となります。組織からDNAが抽出できれば解析可能なので、保存状態にもよりますが、自然排出した検体でも検査が可能です。先進医療として実施した場合は、自治体の助成金の対象となります。
着床の特集ページです。 | 不育症・習慣流産に関する特集ページです。 |