不育症の検査

2003~2004年の日本産婦人科学会生殖内分泌委員会「ヒト生殖のロス(習慣流産等)に対する臨床実態の調査」小委員会で、不育症の一次スクリーニング、二次スクリーニングが提唱されましたが、これには測定項目が多く研究段階の検査は患者様の負担になるばかりか、有効な治療の選択肢を持たないために省略しています。

 

子宮形態検査

子宮卵管造影法や経腟超音波、ソノヒステログラフィー等により、子宮奇形や子宮内膜ポリープや筋腫の有無、位置を確認します。
MRI検査を行うこともあります。
不育症の7.8%に子宮形態異常が認められています。

 

内分泌機能 (血液検査)

甲状腺機能 FT3、FT4、TSH
甲状腺機能異常は6.8%に認められています。

 

抗リン脂質抗体 (血液検査)

抗リン脂質抗体は、人の体内のすべての細胞膜表面にあるリン脂質と結合した血漿中のたんぱく質に反応する自己抗体です。
健康な人の血液中にも微量ながら存在するものですが、これが異常に多く産生されている状態を抗リン脂質抗体陽性といいます。
増えてくることにより妊娠子宮内で血栓を生じたり、血管新生を妨げる働きをします。
この検査は精度が高くないために12週以上間隔をあけて陽性が続けば抗リン脂質抗体症候群として管理が必要です。
上記のいずれかの陽性率は、不育症の約10%を占めますが、抗リン脂質抗体症候群は4%といわれています (Rai RS, et al., Hum Reprod. 1995 Dec;10(12):3301-4.) 。

感染症による抗リン脂質抗体を除いて、血栓症を引き起こすような抗リン脂質抗体として現在検査が可能な測定方法には、

  • 抗カルジオリピンβ2グリコプロテインⅠ複合体抗体(抗 CLβ2GPⅠ抗体)
  • 抗カルジオリピン抗体ⅠgG(抗 CL抗体ⅠgG)
  • ループスアンチコアグラント定性(LAC)

があります。

国際抗リン脂質抗体学会が提唱する抗リン脂質抗体症候群診断基準によれば、

(a)妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡
(b)妊娠10週未満の3回以上連続する原因不明習慣流産
(c)妊娠高血圧症候群もしくは胎盤機能不全による1回以上の妊娠34週以前の早産

を妊娠合併症としています。
偽陽性もありますので12週以上あけてもう一度陽性になったら抗リン脂質抗体症候群と診断されます。

■抗核抗体について
抗核抗体の陽性率も反復流産の患者様に高頻度にみられますが、抗リン脂質抗体陰性の場合、次回妊娠の流産率は抗核抗体の陽性・陰性に有意差がないと報告されています。

 

凝固系検査 (血液検査)

血液凝固因子(第Ⅻ因子)
血液凝固因子の中で第Ⅻ因子の低下は流産の危険因子であることがわかってきています(Gris JC, et al., Thromb Haemost. 1997;77(6):1096-103.)。
不育症例の約15%を占めるといわれ、低下している症例の80%が流産したのに対し、治療を行ったところ流産率は12.5%に減少しました。

 

夫婦染色体検査 (血液検査)

普段の健康には影響のない染色体異常の場合、流産を繰り返す場合があります(Hirshfeld-Cytron J, et al. Semin Reprod Med. 2011 Nov;29(6):470-81.)。
しかし治療なしでも最終的に高い頻度で出産までいたるケースが多いことが明らかになってきました。
診断は、ご夫婦ご両人の血液検査で行います。検査の実施前から充分な遺伝カウンセリングが必要になります。